東京五輪談合事件で検察側が電通グループに罰金3億円を求刑/独禁法の刑事罰について
2024/09/20   訴訟対応, 独禁法対応, 独占禁止法

はじめに

 東京オリンピック・パラリンピックをめぐる談合事件で18日、東京地検は電通グループに罰金3億円を求刑していたことがわかりました。被告側は無罪を主張しているとのことです。今回は独禁法の刑事罰について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、電通グループと同社元幹部は東京五輪の運営業務をめぐり、広告大手博報堂などと不正な受注調整をして独禁法が禁止する談合を行ったとされます。組織委員会が発注したテスト大会の計画立案業務や本大会の運営業務など、総額437億円にのぼる事業を不正に調整していたとのことです。東京地裁は同社と元幹部を独禁法違反の疑いで東京地裁に起訴しており、同社に対して罰金3億円を求刑しております。。なお同事件で東京地裁は7月に博報堂に対して罰金2億円、元局長に懲役1年6ヶ月、執行猶予3年を言い渡しております。

 

不当な取引制限とは

 今回問題となったのは独禁法が禁止する不当な取引制限の一種である談合です。ここで軽く不当な取引制限についても見直しておきます。独禁法2条6項によりますと、不当な取引制限とは、事業者が他の事業者と共同して、相互にその事業活動を拘束し、または遂行することにより、公共の利益に反して一定の取引分野における競争を実質的に制限することとされております。つまり事業者同士の意思の連絡と相互拘束、それによる一定の取引分野における競争の実質的制限が要件と言えます。「意思の連絡」は明示的な合意などだけでなく、黙示的なものも含まれる非常に広い概念と言えます。「相互拘束」は、複数の事業者が何らかの反競争効果の実現のために意思の連絡を通じて互いの行動を調整し合う関係が全体として成立していることと言われております。「一定の取引分野」は、いわゆる市場のことで基本的には需要者から見た代替性の観点から画定されます。そして「競争の実質的制限」とは、市場における価格や品質、数量などをある程度自由に支配できる状況を作り出すことと言えます。

 

独禁法と罰則

 独禁法が禁止する不当な取引制限などの行為を行った場合、公取委によって排除措置命令や課徴金納付命令が課されることとなります。しかし場合によっては別途刑事罰が科されることもあります。それではどのような場合に刑事罰が規定されているのでしょうか。独禁法上罰則が規定されているのは、私的独占、不当な取引制限、事業者団体による競争の実質的制限行為となっており、不公正な取引方法については現時点では規定されておりません。これらの行為に対しては、5年以下の懲役または500万円以下の罰金、法人に対しては5億円以下の罰金となっております(89条)。なお厳密にはこれらの行為の他に、不当な取引制限を内容とする国際協定、事業者団体における将来の事業者数制限、事業者団体による構成事業者の活動制限、排除措置命令違反などに対しても罰則が規定されております。

 

公取委の刑事告発方針

 刑事罰の対象となる行為が行われた場合であっても、常に刑事告発がなされるわけではありません。「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」によりますと、(ア)一定の取引分野における競争を実質的に制限する価格カルテル、供給量制限カルテル、市場分割協定、入札談合、共同ボイコット、私的独占その他の違反行為であって国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案、(イ)違反を反復して行っている事業者・業界、排除措置に従わない事業者等にかかる違反行為のうち、公取委の行う行政処分によっては独禁法の目的が達成できないと考えられる事案については積極的に刑事処分を求めて告発する方針とされております。ただし調査開始前に課徴金免除に係る報告や資料提出を行った場合などについては告発を行わないとのことです。

 

コメント

 本件で公取委の発表によりますと、発注者である組織委員会の従業者と国内外の主要スポーツイベント等の運営実績がある大手広告代理店または大手のイベント企画運営会社等が国家的プロジェクトである東京五輪大会の運営業務等を対象として入札談合を行っていたことから、上記方針に照らして告発したとされております。五輪という巨大な国家プロジェクトで総額437億円もの事業を談合で受注していた悪質性から、行政処分だけでは独禁法の目的を達成できないと判断されたものと考えられます。以上のように独禁法では違反に対し排除措置命令や課徴金納付命令だけでなく、一定の行為に罰則が設けられております。違反しても直ちに刑事告発されるわけではありませんが、反復していたり悪質な場合は告発にいたることもありえます。どのような場合に違反となるかを社内で周知し、啓発を続けていくことが重要と言えるでしょう。

 

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