「着替え時間も労働時間」と賃金未払い訴訟起こした看護師、病院から雇い止め通知
2024/10/03   契約法務, 労務法務, 訴訟対応, 労働法全般, 医療・医薬品

はじめに


医療法人 北武会が運営する「美しが丘病院」が9月20日、未払い賃金の請求訴訟を起こしている看護師に対し、現契約が終わる23日での雇い止め通知を行ったと報じられました。

病院は当初、現契約更新のための再雇用契約書を看護師に提示しており、労働組合は病院に対し、通知の撤回と団体交渉を求める方針です。

美しが丘病院では、今回の通知を受けた看護師を含む16人が、着替えや始業前の準備時間が労働時間に含まれていなかったことを理由に、病院を相手に訴訟を提起しています。

 

看護師に訴えられた病院、原告に雇い止め通知


報道などによりますと、雇い止め通知を受けたのは、労働組合支部長の女性看護師(63)です。看護師はこれまで病院との間で、期間を1年とする雇用契約を結び、契約の更新を繰り返してきました。しかし、誕生日を前に送られてきた雇用契約書には、「次回は契約の更新は行わず、満65歳となる2025年9月23日で契約を終了する」旨記載されていたということです。

従前の契約書には更新上限に関する条項はなく、同病院には65歳以上を超えて働いている人が複数いることから、看護師は更新上限条項の無効を主張。労働組合を通じた団体交渉を要求し、雇用継続を求めていました。

この団体交渉を受け、病院側は9月20日、「看護師側に契約更新の意思がない(満65歳での契約終了を条件とした雇用契約を結ぶ意思がない)」として、現契約の更新は行われず、今年9月23日付で退職になると通知したということです。

 

“着替えや始業前準備は時間外労働”看護師らが病院提訴


この看護師を含む、美しが丘病院に勤務する看護師ら16人は、今年8月15日、「制服へ着替える時間も労働時間に含まれる」などと主張し、未払い賃金計約4600万円の支払いを求め、札幌地方裁判所に提訴しています。

美しが丘病院では、看護師らの着替えは始業前・終業後に行うこととなっており、労働時間に含めていないということです。さらに、始業前の業務として、10〜25分程度の時間をかけて、看護師は点滴などの薬の準備、介護職員はおむつ補充を行っていますが、これらも時間外労働として認められていないと報じられています。

そのほかにも、病院の就業規則では「休憩」に関し、昼休みは1日60分、仕事の合間に10分、合わせて70分の休憩時間を取ることができると記載されているそうですが、実際には看護師は10分休憩は取れず、患者対応にあたっていたとも主張しています。

こうした背景から、看護師らは、以下に対する未払い賃金を過去3年分支払うよう、病院側に求めました。
・着替え1回5分(1日あたり10分)
・始業前準備については職種ごとに10~25分

しかし、札幌地域労働組合の支部を通じて行っていた交渉が打ち切られたことから、提訴に踏み切ったといいます。

なお、厚生労働省のガイドラインでは「労働時間には着替えなどの業務に必要な準備も該当する」と記載されています。

◯厚労省 労働時間の考え方について
① 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
② 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
③ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間


労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(厚生労働省)

 

コメント


今回の雇い止め通知を受け、病院の労働組合は、看護師の雇用継続を求める訴訟の提起も検討するということです。

過去の判例上、着替えが業務上必要な場合や使用者側の明示的な指示による場合、黙示的な命令による場合などでは、制服への着替え時間が労働時間と認められる傾向があります。

看護師らの着替え時間や、病院が行った雇い止めの適法性などに対し、今後どのような判断が下されのか注目されます。

 

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