育児のため業務制限申請した男性を降格・転籍、「パタハラ」でオルゴール堂HDを提訴
2024/11/26 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 小売
はじめに
育児中の男性が、宿泊を伴う出張回避のため深夜業の制限を申し出たところ、会社から降格・転籍を命じられたとして、11月20日、男性が勤務先の親会社を提訴しました。男性は、地位確認(降格・転籍を命じられる前の地位があることの確認)に加え、慰謝料など約1400万円の支払いを求めているといいます。
昨今、男性労働者の育児休業の取得率が高まっていますが、こうした中、「パタニティーハラスメント」が問題となっています。
業務制限申請で不利益取り扱い、地位確認・慰謝料請求へ
「パタニティハラスメント」とは、子どもを持つ男性労働者が、育児休業や時短勤務などの制度を利用または利用を希望したことに対し、不利益な取り扱いや嫌がらせをする言動を指します。
その「パタニティーハラスメント」があったとして、11月20日、男性社員が勤務先の親会社である株式会社オルゴール堂ホールディングスを京都地方裁判所に提訴しました。今回の訴訟に至るまでに、次のような経緯があったと報じられています。
【訴訟までの経緯】
2022年12月、株式会社オルゴール堂ホールディングスの営業部次長を任されていた男性は、当時1歳だった子どもの育児のため、宿泊を伴う出張の免除をしてもらうべく、就業規則に基づき、深夜業の制限を申請しました。
ところがその翌月、上司から電話で降格処分を伝えられ、主任へ降格させられたといいます。男性はハラスメント窓口に相談しましたが「事前に根回ししていないのがよくない」などと言われたということです。さらに、社長との面談時には「育児したいのなら退職すればいい」と非難されたと報じられています。
その後、会社側は男性に対し、「事前相談なく申請し、関係部署に混乱を引き起こした」などとして始末書を書くよう指示。加えて、子会社への転籍同意書への署名を求め、その際、「書かなければ退職」と迫ったといいます。
そのため、男性は同意書に署名し、現在の勤務先であるオルゴール堂ホールディングス子会社のオルゴール販売店へ転籍となったということです。
これらの処遇をきっかけに、男性は精神障害を発症。約1年間休職し、今年5月に復職しました。
男性は今回の提訴に関し、「とてもつらい経験で、どう対抗してよいか分からず苦しんだ1年半だった」とコメントしています。
これに対し、オルゴール堂ホールディングスは「訴状が届いていないため回答は差し控える」としています。
育児・介護休業法の改正でパタハラ禁止明記
厚生労働省は、男女とも仕事と育児を両立できるよう、育児・介護休業法の改正を行い、2022年4月1日・同年10月1日・2023年4月1日の3段階でこれが施行されました。主な改正内容は以下となります。
■育児休業を取得しやすい雇用環境の整備(2022年4月1日施行)
育児休業と産後パパ育休(2022年10月1日創設)の申し出が円滑に行われるよう、事業主は以下のいずれかの措置(複数が望ましい)を講じる必要があります。
① 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
② 育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
③ 自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
④ 自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
■妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置(2022年4月1日施行)
本人または配偶者の妊娠・出産などを申し出た労働者に対し、事業主は育児休業制度等に関する以下の事項の周知と休業の取得意向の確認を、個別に行わなければなりません。ちなみに、取得を控えさせるよう誘導する形での個別周知と意向確認は認められません。
画像引用:育児・介護休業法 改正ポイントのご案内 令和4年4月1日から3段階で施行(厚生労働省)
■育児休業取得状況の公表の義務化(2023年4月1日施行)
従業員数1,000人を超える企業は、育児休業などの取得状況を年1回公表することが義務付けられました。これにより、男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」が公表されることになります。
なお、改正法では、ハラスメントに関し以下の内容が明記されています。
・育児休業等の申し出・取得を理由に、事業主が解雇や退職強要、正社員からパートへの契約変更等の不利益な取り扱いを行うことの禁止
・妊娠・出産の申し出、産後パパ育休の申し出・取得、産後パパ育休期間中の就業を申し出・同意しなかったことなどを理由に不利益な取り扱いを行うことの禁止
・事業主に対し、上司や同僚からのハラスメント防止措置を講じるよう義務化
コメント
厚生労働省が18歳から25歳の男女7800人あまりを対象に行った意識調査によると、育休の取得を希望する男性は80%を超えており、若年層を中心に制度への期待が集まっています。
そんな中、2023年度には男性の育休の取得率は約30%となり、過去最高を記録しています。
一方で、女性の育休の取得率が約80%を超えていることを考えると、男性の育休取得率は、いまだ相対的に低い状態と言えます。
そのため、政府は2025年までに男性の育休取得率を50%にすることを目指し、今後、制度の利用拡大を図る方針です。
そんな気運に水を差すパタニティーハラスメント。過去には、アシックスでも、育休取得後に出向を命じられた男性社員が精神的苦痛に対する慰謝料などを求め会社を提訴しています。
こちらの訴訟は、会社側が「育休取得を円滑にする環境整備をしていく」と表明したため、和解したとされていますが、今後、オルゴール堂ホールディングスの裁判がどのように進んでいくのか大きな注目が集まります。
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