京都新聞HDが大株主から株式取得、特定株主からの自己株取得について
2024/12/27 商事法務, 総会対応, コンプライアンス, 会社法
はじめに
京都新聞ホールディングスは26日、元相談役であった大株主から自社株計341万株を約20億円で取得すると発表しました。発行済株式の28.4%に当たるとのことです。今回は特定株主からの自己株式取得について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、京都新聞HDは2022年、過去に当該大株主に支払った役員報酬など約19億円が特定株主への利益供与に該当するとの第三者委員会の報告書を公表しました。これを受け、同社社長は「一人が株式を大量保有していたことが経営のゆがみにつながった」と指摘し、「社会的指名である報道を安定的に継続するため、取得を決めた」として同大株主からの自社株取得を決定したとされます。同大株主の株式は京都新聞HDの取得を前提として、10月末で東京の投資ファンドに既に譲渡されているとのことです。今回の自社株取得については26日の臨時株主総会で既に決定決議がなされております。
自己株式の取得
現在会社法では、原則として会社が自社株である自己株式を取得して保有することが許容されております。これにより株式市場に溢れ、価値が下がった自己株式を取得して株価の安定を図ることや、敵対的買収からの防衛を図ることも可能です。またM&Aの対価として用意しておくことで多大なコストをかけずに組織再編や事業再編を行うこともできます。このような自己株式の取得ですが、その方法や会社と株主との合意による取得の他に、譲渡制限株式の譲渡不承認による取得、取得請求権付株式や取得条項付株式の取得、吸収合併等で自己株式が含まれていた場合、株式の相続人からの取得など様々な場合があります。自己株式を有償で取得する場合、それはある意味で株主への出資の払い戻しの側面もあることから、会社財産の確保と債権者保護の見地から原則として財源規制を受けることとなります(会社法461条1項各号)。この財源規制とは、取得の効力発生日における分配可能額を超えてはならないということです。
特定の株主からの取得手続
自己株式を株主との合意によって取得する場合、原則として株主総会の普通決議が必要となります(156条)。決議事項は取得株式数、取得と引き換えに交付する金銭等の内容とその額、取得期間(1年以内)となります。この株主総会の授権決議を受け、取締役会または取締役が実行することとなります(157条2項、348条1項)。希望する株主が申し込んだ場合、申込み期日に会社が自動的に承諾したものとみなされます(159条2項)。これに対し特定の株主からだけ取得する場合は株主総会の特別決議が必要となります(160条1項)。これは株主全員が申し込みの機会を得るわけではないから株主の権利保護として要件が厳しくなっております。ただしこの場合でも原則として株主総会5日前までに対象の株主に自己も含めることを請求することができます(同3項)。これを一般に売り主追加請求と言いますが、これは定款で定めることによって排除できます。排除していない場合は株主総会の2週間前までに株主への通知が必要です。
利益供与とは
ここで簡単に会社法が禁止する利益供与行為についても触れておきます。会社法120条1項では、株式会社は何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならないとしております。これはいわゆる総会屋対策として規定されたものですが、利益供与の相手は株主に限られず何人に対してもとされております。財産供与については、正当な目的があり、社会通念上許容される範囲内で、会社の財産敵基礎に影響を及ぼすものではない場合は例外的に許容される場合もあるとされます(東京地裁平成19年12月6日)。利益供与を行った取締役は供与した額について会社に支払う義務を負います。これは無過失を証明しても免れることはできません。これに対し関与しただけの取締役は無過失の証明で免れることが可能です。またこの利益供与には罰則も規定されており、3年以下の懲役または300万円以下の罰金とされております(970条1項)。
コメント
本件で京都新聞HDは、過去34年間にわたって相談役である大株主に総額19億円にのぼる報酬を支払っていたとされます。2019年に始まった同社の経営資源の見直しでこの問題が発覚し、第三者委員会の調査では会社法に違反する利益供与に該当すると指摘されておりました。これを受け、経営の健全化を図るため大株主の保有する同社株式を自己株式として取得することが決められました。同社の定款規定などは不明ですが、臨時株主総会での承認決議は既に得られているとのことです。以上のように特定の株主から自己株式を取得する場合は原則として株主総会の特別決議が必要です。また定款規定で排除していなければ、他の希望する株主からも請求が可能となります。自己株式については先日も取り上げましたが、昨今の経営のスリム化やM&A、上場廃止等、様々な場面で問題となってきます。今一度手続等を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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