木造建築の積極的取り入れ、手続の迅速化も、建築基準法改正案が成立。
2014/06/02 不動産法務, 法改正対応, 法改正, 住宅・不動産
事案の概要
建築物において木材利用や新技術の導入を促進するための規制緩和や、建築関連手続を合理化する制度などが盛り込まれた建築基準法改正案が5月29日、衆議院本会議で可決、成立した。本改正により、需要の落ち込んでいる国産木材を利用した建造物の普及や、建築関連手続の迅速化が期待される。また、震災や事故等の対策に安全性を強化する実効性の高い建築基準制度の構築も改正に盛り込まれ、かなり大規模な改正となっている。
木材の有効利用へ
これまでは、中にいる人が地上まで避難が完了するまでの時間を稼ぐために、不特定多数が利用する建築物や、病院、学校といった3階建て以上の施設は耐火構造であることが義務付けられ、木造建築を用いることが難しい制度となっていた。本改正では3階建ての学校等については、実大火災実験等(※1)により新しく情報が得られたことを受け、一定の防火措置を施すことにより耐火構造よりも厳格でない基準(準耐火構造等)でも良いという緩和がなされた。
木造建築については需要の低下する国産木材の需要を喚起し、森林資源の保全に役立てようと平成22年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が成立しており、今回の法改正と併せて公共施設を中心に木材利用が促進されることが期待される。
合理化による迅速化
本改正では構造計算適合性判定(※2)について合理化がなされた。これまで建築主事(市区町村や都道府県に設置)等が建築主の申請に応じて建築確認をするにあたって、建築主事等が構造計算適合性判定を判定員等に依頼するという形をとっていた。これについて判定の申請を直接建築主が行えるように改正がなされた。建築確認の申請と同時に判定の申請が可能になるため、建築確認の審査期間が短縮されることが期待できる。
また他にも、国土交通大臣の認定制度の創設(かつて存在した制度の復活)により、既定の建築基準では対応できない新建築材料や新技術についても円滑に導入を促進したり、容積率(※3)の計算につき住宅の特例を老人ホームにも適用するなどの合理化がなされている。
安全性確保につき実効性の担保も
本改正では事故・災害対策の徹底など国民の安全・安心の確保のためにより実効性の高い建築基準制度の構築を目指した内容も含まれている。具体的には定期調査・検査報告制度の強化と建築物の事故等に対する調査体制の強化となっている。特に後者についてはエレベーター事故や災害等の発生に対し国が直接必要な調査を行えることや、国や地方自治体が建築設備等の製造者等に対する調査を実施できるように権限を充実させるなど、実効性の高さを意識したものとなっている。
※1実大火災実験:実物大の建造物を実際に燃やして火災の様子を検証する実験。避難が安全にできること、周囲への火災による影響が少ないこと(熱・火の粉・倒壊など)、消防活動上の障害が少ないこと(急速な倒壊など)などを見る。
※2構造計算適合性判定:建築構造物が通常時や積雪、地震、風などに対してどう力がかかり、それら力に耐えられるかといった安全性の確認をするための計算(構造計算)の適合性の判定のこと。一定の規模以上の建造物に義務付けられており、専門の判定員等が審査を行う。
※3容積率:敷地面積に対する建築の延べ面積のこと。地域ごとに都市計画で指定されており、指定容積率を上回る建物は建てられない。今回の改正では住宅の地下室の一定部分を容積率計算に含めない(延べ面積に入れない)という規定を老人ホーム等にも拡大するもの。
コメント
震災での復興や東京五輪の開催を受けて今後建設需要はいっそう高まるものと予想できる。これを踏まえると建築手続の迅速化が期待できる今回の改正は適切なものであったと思う。一方で昨今の木材需要低迷に対応した利用促進政策を受けたと思われる木造建築関連基準の見直しについては、新たな木材需要喚起に期待しながらも、気にかかる点もある。記事にも述べた通り政府は林野庁を中心として公共施設への木材利用を推し進めているところであるが、学校などの大型の公共施設については利用者(並びに保護者)の不安は残るところであろう。科学的、実証的な知見に基づいて問題ないと判断されたものではあるのだろうが、必要とされる基準が「耐火構造」から下げられたという事実が国民にどう捉えられるかは考慮したほうがいいだろう。現在実験データや動画などの公開はなされているが(※4)国民に安全性を理解してもらう姿勢は(たとえ国民が無関心であったとしても)大変重要である。今後も安全に関する国民のより深い理解とセットで改革が進められることが望まれる。
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