食害から農地を守れ~改正鳥獣保護法の成立とその内容~
2014/06/09 法改正対応, 法改正, その他
概要
日本の今後の成長戦略の一つとして農業の振興が掲げられ、土地利用等で農業改革が進められている昨今、農業従事者の生産意欲の減退を防ぐことは大きな課題となっている。今国会では5月23日に改正鳥獣保護法が成立し、野生鳥獣による農産物の食害を防ぐための様々な対策が取られることとなった。今回はこの改正法について見てみたい。
鳥獣「管理」へ、法律の名前ごと改正
鳥獣保護法(鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律)ではこれまで鳥獣の保護と日常生活や農業、生態系への被害を防止することを掲げ、鳥獣の保護と狩猟の適正化を目的としてきたが、本改正では「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」に名を改め、鳥獣「管理」の概念が新たに明示されることとなった。「管理」は鳥獣の生息数の適正な水準への「減少」と生息地の適正な範囲への「縮小」と定められ、それまでの保護と狩猟の適正化だけでなく、必要な限りで積極的に鳥獣を減らしていく方針が示されたと言える。
具体的な「管理」の政策として、管理計画の策定の規定と、指定管理鳥獣捕獲等事業の創設が定められた。
・管理計画
これまで都道府県には鳥獣についての保護計画を策定することが定められていたが、本改正により増えすぎたり生息域が拡大しすぎていたりする鳥獣については管理計画としてこれを抑え込む計画も策定する規定が新設された。
・指定管理鳥獣捕獲等事業
指定管理鳥獣捕獲等事業は、集中的かつ広域的に管理を図る必要があるとして環境大臣が定めた鳥獣につき、都道府県又は国が捕獲等をする事業である。この事業の下では捕獲等の許可が要らず、一定の条件下では夜間でも猟銃が使用できるなどの緩和がなされる。
駆除の担い手の確保へ、若者も参入しやすく
鳥獣の捕獲については専門的な知識が必要な部分が多く、昨今は狩猟者の減少・高齢化等により鳥獣捕獲の担い手が減少するという問題を抱えていた。本改正では持続的な担い手の確保に向けた規定も定められた。
まず認定鳥獣捕獲等事業者の制度が定められた。これは捕獲を専門とする事業者(法人)の事業を認定する制度であり、安全管理体制や従事する者の技能及び知識が一定の基準に適合していれば認定を受けることができる。認定された事業に従事する者で、狩猟について必要な適性を有することが確認された者については、狩猟免許更新時の適性試験が免除される優遇を受けられる。また、若者の狩猟への参画のため、網やわなを使った狩猟の免許の取得の年齢制限が20歳以上から18歳以上へと引き下げられた。
この他にも麻酔銃の住居集合地域での制限について、鳥獣による住民の生活環境被害の防止を優先する観点から、一部緩和されるなどの規定が盛り込まれている。
コメント
農業を行うにあたってのリスクとして鳥獣の食害はかなり深刻である。平成23年時点でシカやイノシシの被害を中心に全国の農作物の鳥獣被害は226億円にのぼり、ここ数年増加傾向にあった。特に北海道ではエゾジカの食害が大きい。筆者も一度北海道のハンターの方に同行させてもらった経験が有るが、エゾジカの数と生息域を抑制し、管理するためには人員が足りていないという印象をもった。今回の改正では一部の狩猟については年齢引下げが行われたが、根本的な人員確保のためには、狩猟についての教育制度や機関等の仕組みを新たに創設したりなど、もっと抜本的な改革も必要なのではなかろうか。また、ただ人材を増やして管理費用を行政が負担するばかりというのでは行政としても苦しいだろう。農業の改革と同じように狩猟が利益を生み、狩猟事業者が自律できるようにする体制を作ることが重要だ。具体的には捕獲鳥獣の食肉流通と観光利用などである。特に食肉利用については北海道などで取り組みが進んでいるが、新たに始めようとする者には食品衛生法のクリアや、食肉処理加工施設の継続・安定的な運営、販路確保など課題は多いと思われる。今後はこの観点からの法整備も期待したい。
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