耐久性不足のマンションが8割の同意で取り壊し可能に~マンション建て替え円滑化法が改正~
2014/06/20 不動産法務, 法改正対応, 法改正, 住宅・不動産
事案の概要
老朽化し耐震性が不足したマンションの取り壊しを容易にし、建て替えを促す「マンション建て替え円滑化法※」が、6月18日の参議院本会議で可決成立した。
※マンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部を改正する法律案
<背景・目的>
我が国のマンションのストック総数は約590万戸あり、国土交通省によると、昭和56年以前の旧耐震基準に基づいて建設されたマンションは約106万戸ある。それら古い基準で建設されたマンションの多くは耐震性が不足していると考えられるが、実際に建て替えを終えたマンションは累計で183件、14000戸(H25年4月時点)にとどまる。
近い将来、南海トラフ巨大地震や首都圏直下型地震などの巨大地震が発生することが予想されており、巨大地震による建物の倒壊と、建物倒壊に伴う居住者の生命・身体の保護の観点から、 耐震性不足の老朽化マンションの建替え等を促す必要があった。
そこで政府は、マンションの取り壊しの要件を緩和することで、耐震性が不足したマンションの建て替えを促そうとしたものといえる。
<改正の概要>
(1)マンション敷地売却制度の創設
マンションが耐震性不足の認定を受けた場合、当該マンションの入居者の4/5以上の賛成があれば、マンション及びその敷地の売却を行うことができる。
現行法では、一般のマンションを取り壊して住み替えを行うには、入居者の全員の同意が必要とされる。改正法では、耐震性不足のマンションに対しマンション敷地売却制度が創設されたことで、取り壊しの要件が緩和されたことになる。
このマンション敷地売却制度の下では、マンション敷地売却決議 の合意者の3/4以上の同意で、マンション敷地売却組合を設立することができる。組合は決議に反対した入居者に区分所有権・敷地利用権を時価で売り渡すことを請求できる。
(2)容積率を緩和する特例の新設
耐震性不足の認定を受けたマンションの建替えにより新たにマンションが建築される場合、一定の敷地面積を有し、市街地環境の整備・改善に資するものについては、特定行政庁の許可により、容積率(その敷地内に建てることができる建物の大きさ)を緩和されることになった。これにより、建て替え前より大きいマンションを建てやすくなった。
コメント
老朽化したマンションの建て替えは入居者の生命・財産を保護する観点から重要であるが、これまでは耐久性の不足するマンションであっても入居者の全員の同意が必要であり、建て替えが実現したのは、ほんの一部にとどまっていた。しかし巨大地震が予想される現状にあっては、耐震基準を満たしたマンションに建替えることが望ましい。本改正法が要件を緩和し、建て替えを促した点は評価できる。また、これまでに建て替えが進まなかった理由の一つに、入居者の建て替えに対する資金難がある。容積率に余裕のないマンションの場合、建て替えによりマンションを大きくすることもできず、新規入居者に建築費を負担させることも望めない。そのため、建て替えに伴う建築費は、そのまま入居者への負担につながる。しかし改正法で容積率に特例を設けることで、建て替え前より大きなマンションを建築することができるようになり、新規入居者の分につき現在の入居者の負担額を減らすことも可能となる。改正法の要件も緩やかとは言えず、これで建て替えが急増するとまでは言えないだろうが、現行よりも建て替えが行いやすくなったことは、大きいといえる。
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