【たかの友梨】内部通報者へ圧力「会社潰してもいいの」
2014/08/29 労務法務, 労働法全般, その他
事案の概要
大手エステティックサロン「たかの友梨ビューティクリニック」の仙台店の女性従業員が2014年8月28日、残業代を減額されたなどの問題を労働基準監督署に申告した行為を会社側が非難したのは公益通報者保護法などに違反するとして、厚生労働省に申し立てをした。
女性が所属する労働組合「エステ・ユニオン」(ブラック企業対策ユニオン)によると、サロンを経営する不二ビューティ(東京)では従業員が有給休暇を取ると固定残業代を減額したり、無効な賃金控除の協定書によって研修費や制服代などを給料から引いたりしていた。女性は5月に同社に労組の結成を通知、給与からの制服代の天引きや未払い残業代の支払いなどを求めて団体交渉を重ねたが解決せず、6月仙台労基署に違法な状況を申告した。仙台労基署は今月5日に違法な給与の減額分の支払いなどを命ずる是正を勧告した。
同労組や弁護士によると、労組は今月22日にこの経緯を公表する予定だった。そのことを知った同社の高野友梨社長は、前日の21日に仙台市を訪れ、仙台店の従業員15人や店長らを集め、約2時間半にわたり持論を展開したという。同労組が公開した当日の高野社長の言葉を録音したデータによると、高野社長は通報した女性を名指しして、「間違っているとはいわないけれども、この業界の実態をわかったときに、どうなんだろうか」と組合活動を非難。さらに「労働基準法にぴったりそろったら、(会社は)絶対成り立たない」「潰れるよ、うち。会社潰してもいいの」などと問いただした。他の従業員に対しても「組合に入られた?正直に言って」と組合員であるかどうかを確かめようとした。
名指しで非難された女性は翌日からショックで出勤できなくなり、厚労省に公益通報者保護の申し立てをした。女性は、「恐怖でしかなかった。会社には間違えていることを改善して欲しいと言ってきたのに、非難された。ほかの組合員や従業員にも恐怖を与えているので、社長には謝罪してもらいたい」と話している。加入する「エステ・ユニオン」も宮城県労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てた。一方、同社の担当者は「申し立ては把握していない。不当労働行為とされるような行為はしていないと認識している」と話している。また、当初の違法な残業代の減額や制服代の天引き等については、「減額は計算ミス。すでに是正した」としている。
同社の労基法違反
同社では、残業代があらかじめ決められている「固定残業代」の給与体系を採っている。固定残業代とは、残業代を定額にすることで、賃金総額をそのままに一定時間の残業代を含んだ賃金になるよう賃金制度を変更することに特色がある。固定残業代制度は、労基法に定められている制度ではないが、一定要件を満たす限り適法とされている。固定残業代制度の下では、定額の残業代を減額することは許されない。今回、同社は有給休暇取得後に休んだ日数分を減額しており、このような残業代減額行為は労基法違反となる。また、労基法24条には、「賃金支払の原則」の一つとして、「全額払いの原則」が定められている。給料の支払時に勝手に天引きしてはならず、全額を支払わなければいけないということで、制服代を勝手に給料天引きにすれば同条違反となる。今回、当該女性従業員の通報により、同社が以上のような労基法違反の行為をしている可能性が明らかになった。
通報者に対する会社の対応について
労働組合法は、労働者が労組を組織する権利を認めており、経営者には労組との団体に交渉応じる義務を課している。会社が組合に圧力をかけることがあり、それらの行為は労組法7条1ないし4号により不当労働行為として定められている。同社社長が採った言動は、通報者の正当な労組行為に対し恐怖感を与えるもので、不当労働行為に当たる可能性が高い(支配介入、同条3号)。
公益通報者保護法は、公益通報を行ったことを理由とする解雇の無効、その他不利益取扱いの禁止とすることで内部告発を行った労働者を保護する法律である。厚労省においては、公益通報者保護法に基づき、公益通報窓口において公益通報の受付を行うとともに、受理した公益通報については、通報に関する秘密を保持し、必要な調査を行い、通報対象事実があると認められる場合には、法令に基づく処分又は勧告等の措置を講じている。
今回、通報を行った女性を脅せば公の保護を求めるであろうことは目に見えていた筈である。そして、エステ業界の営業では、消費者に対するイメージは何より重要である。同社社長が採った言動は、それを毀損するもので、経営者として適切な対応だとは言えないだろう。
労基署として求められる調査・調査を受けた会社としての対応
もっとも、問題はそこに止まらず、女性が労基署へ申告した後に、通報者が会社に特定されていることにもあると考える。労基法104条は、「事業所に…違反する事実がある場合、労働者は、その事実を労基署に申告することができる」となっている。匿名での申告は、「申告」として扱われないことから、申告者の氏名・住所等を明らかにする必要がある。しかし、労働者が通報後の圧力を恐れ、通報を控えてしまえば、会社の違法な状態が野放しになってしまうことから、申告者は「名前を会社に公表しないでほしい」と言うこともできる。とはいえ、申告者を非公表にしたままでは労基署の調査範囲に限界がある。今回、通報した女性が、自身の特定を避けるよう労基署に申告していたかは定かではない。労基署としては、通報者が特定された場合に会社から圧力をかけられることも考慮した上で、なるべく特定されないよう調査範囲を限定しすぎないようにするなど配慮する必要があろう。
また、労基署の調査を受けた会社は、決して「犯人探し」をせず、申告者が判明したとしても追求せずに今後の改善策を示して和解を目指すのが望ましい。調査があった時点で、思い当たることがある場合は、多くの場合ある程度のコストや手間は覚悟しないとならない。しかし、労務管理の見直しのきっかけだと思い、問題を真摯に受け止め是正勧告に誠実に従えば致命的なダメージになることはないと考えられる。
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