東芝株主集団訴訟へ
2015/09/10 訴訟対応, 会社法, メーカー
1 東芝の集団訴訟
東芝事件株主弁護団は、今年の7月に発覚した東芝の不適切な会計によって生じた株主の損害について、個人株主を集って集団訴訟を提起することがわかった。そこで、本件における役員と株主の間に生じうる法的紛争のうち、損害賠償請求について概説したいと思う。
2 予想される訴訟
東芝事件株主弁護団のHPによれば、株価の下落によって生じた損害の回復を目的とした訴訟を提起することが伺われる。会社法上の損害賠償請求としては、株主代表訴訟と、429条に基づく請求が考えられる。
3 株主代表訴訟
株主代表訴訟とは、株主が会社に対して役員の責任追及を求め、会社が役員に対して損害賠償請求をしない場合には、株主が自ら損害賠償請求をすることができるという制度である(会社法847条1項)。ただし、この制度はあくまで会社の損害を回復する制度であり、株主が直接金員の交付を受けることができるものではない。そのため、会社の財産が回復する→株価が上がる→株主の損害が回復するという株主にとっては間接的な損害回復の手段となる。特に、多数派株主が役員を務めている場合には、結局役員の管理下に金銭が留まるので、必ずしも実効的な救済にはならないという点がデメリットとなる。
4 429条に基づく請求
より直接的な方法としては、株主が役員に対して直接的に損害賠償請求をする方法がある。この方法は役員から株主に直接金銭が交付される点では損害回復が直接的である。請求としては真っ先に民法上の不法行為(民法709条)が考えられるが、本件の東芝事件のような虚偽の会計については会社法上の法定責任があり(会社法429条2項項)、役員が無過失を立証しない限りは損害賠償請求が認められるため、東芝の株主は会社法429条に基づく請求をすることが予想される。
しかし、429条に基づく請求を無条件に株主に認めることは有力な批判がある。実際、不法行為として請求された事案ではあるが、「株式が証券取引所などに上場され公開取引がなされている公開会社である株式会社の業績が取締役の過失により悪化して株価が下落するなど、全株主が平等に不利益を受けた場合、株主が取締役に対しその責任を追及するためには、特段の事情のない限り、商法267条に定める会社に代位して会社に対し損害賠償をすることを求める株主代表訴訟を提起する方法によらなければならず、直接民法709条に基づき株主に対し損害賠償をすることを求める訴えを提起することはできないものと解すべきである。」として株主の直接の損害賠償請求を否定する判示をしている裁判例も存在する(東京高裁平成17年1月18日)。会社の損害が回復すれば株主の損害が回復する場合にまで株主の直接の請求を認めることは損害賠償請求株主の保護に過ぎ、上記の代表訴訟の制度趣旨を没却させるということがその理由である。
今回の裁判で、429条の請求が認められるかは定かではない。しかし、上記の有力見解によるとしても、429条に基づく請求が認められる余地はあると考えられる。本件の株価の下落が会社の不適切な会計に依る東芝の信用の喪失による側面もあるが、純粋に株主が会社財産に見合わない株式の高値掴みをさせられたという側面もありうる。このうち、不適切会計に依る信用喪失に依る株価の下落については、信用に見合う金銭が会社に戻ることで損害は回復される。しかし、不適切会計に依って株式を高値掴みしたことについては、高値掴みによって東芝自体は損害を被っているとはいえないため、株主が直接に損害賠償請求をすることが認められうる。
5 コメント
マスコミの報道を見る限りでは、会社ぐるみで長年にわたって粉飾決算を行っていたことから、主要な争点は株主の損害が何に由来するか(役員の任務懈怠と株主の損害と因果関係の有無)となることが予想される。オリンパスの粉飾決算も記憶に新しく、会計は株主、債権者など多数の利害関係人にとっての重大な資料であり、会社法や規則で会計については多くの規制がされている。このことから、会計を巡る役員の責任について厳しい判断が下されることもありうる。この機会に、企業の会計について改めて見直すことが必要となる。
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