内定取消?辞退?に頭を悩ます中小企業
2015/10/01 法務採用, 労働法全般, その他
1.概要
来年(2016年)春卒業の就活生の採用活動は本日(2015年10月1日現在)に正式な内定日を迎える。現在の就職活動の実情としては、採用を巡る経団連の指針見直しにより、今年から面接や筆記試験などの選考活動解禁が、従来より4カ月遅れの8月1日に繰り下げられている。見直しの目的としては、「学業に専念する時間の確保」にあったようである。しかし、企業側からは他社の抜けがけ選考への不満であったり、学生側からも「結果として就活活動時期が伸びている。」等の困惑の声が上がっているようである。
昨年までは、「経団連非加盟の外資系、IT企業が大学3年生の後半から採用活動を実施→経団連加盟の大企業は大学4年4月から面接を始め、7月初旬までには実質的な内定を出す→中小企業の採用が本格化」という流れだった。ところが今年は、外資系、IT企業が他業界に先駆けて選考を本格化させたのが春ごろで経団連の指針に従った大企業は8月にようやく選考に着手した。そのせいもあってか、中小企業では今春以降、学生に内定を出したものの、経団連で選考解禁になった8月以降、内定辞退を伝える学生が相次いだ。
企業側が内定決定を出したにもかかわらず、学生らが一方的に辞退することには何ら問題は生じないのかについて考えてみたい。
2.内定辞退と内定取消について
まず、採用内定の法的性格は「始期付・解約権留保付労働契約」であるとする考え方が判例上確立している(最判昭54.7.20民集33巻5号582頁「大日本印刷事件」)。つまり、正式な採用内定は、労働契約を予約する意味合いにとどまらず、その段階で内定者と企業の間に労働契約が成立する。この点、民法第627条1項で「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」とされる。
そのため、学生側では本条により、一般の社員がいつでも解約をできるのだから、内定辞退についても同様にいつでも辞退できると考えられている。そして、「各当事者は」と規定されているのだから、企業側でもいつでも解約する権利があるようにも考えられるが、今度は労働契約法の第16条で 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されている。すなわち、企業側が内定を取り消そうと考えた場合、内定取消の客観的合理性と社会的相当性の2つの要件を兼ね備えていなければ法的に無効とされてしまうのである。
3.内定取消への対応と課題
もし企業側が一方的に内定取消を行い、それについて内定者が不満に思えば労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する訴えを提起されたり、場合によっては不法行為に基づく損害賠償請求をされたりするおそれもある。
また、内定取消しに対する行政の施策として、職業安定法54条、職業安定法施行規則35条等によってハローワークの所長への通知義務をはじめとする企業側への規制がかけられている。特に、2009年1月から内定取消しを行った企業名を公表する制度までもが導入されていることに鑑みると、国による内定者への配慮は十分に窺われるが、内定辞退に悩む企業側への配慮は不十分だろう。
なお、内定取消しを無効とした例として、内定者が陰気な印象であることを理由としたもの(前掲「大日本印刷事件」)、内定取消しを有効とした例として、逮捕され起訴猶予処分を受けたことを理由としたもの(最二小判昭和55.5.30民集34巻3号464頁「電電公社近畿電通局事件」)などがある。一概に何を理由とするのが有効で何が無効となるかについて峻別することはできないものの、内定取消に客観的合理性と社会的相当性があるかを総合的に判断する姿勢は不可欠である。
4.コメント
日本企業全体のうち、99.7%(430万社)は中小企業であり、雇用も約7割(約2800万人)を占めている一方で大企業はわずか0.03%にとどまる。多種多様な業種の中小企業がこれまでの日本経済の発展を支えてきているのが事実であり、世界に誇れる技術を持つ中小企業は数多く存在する。しかし、多くの学生はネームバリューやブランドにばかり目を向け、わずかしかない大企業の門戸を叩き就職活動をしている者が多いように思う。そうであれば、大企業や中小企業の枠組みにばかり気をとられることなく、学生は自身の可能性に魅力を感じてくれた人への期待に応えようとする意思を持ち、企業は学生の可能性を見抜き信じて懸ける意思を持つことが重要である。それで初めて互いの意思が合致する労働「契約」になるのではないだろうか。
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