ウーバー(Uber)は法的規制を乗り越えられるのか
2015/10/06 法務相談一般, 民法・商法, その他
◆ウーバー(Uber)は法的規制を乗り越えられるのか
米国発の配車アプリ「Uber」を提供するウーバー・テクノロジーズの幹部2名が、フランスで違法なタクシーサービスを提供した罪など(欺瞞的商慣行や違法な個人情報保管を含む6つの罪)で、刑事裁判に処されている。そんな中、9月30日、パリの裁判所は、ウーバー社(パリ事務所)が家宅捜索を受けた際に押収された証拠類に対するより広範なアクセスを認める決定を下し、それに伴い、審理を2016年2月11日まで延期した。これにより、ウーバー社は、約5ヶ月の新たな準備期間を得た形だ。現在、ウーバー社は世界各国で現地の規制や法律と戦っている。
その大勢を占う、このフランスでの大一番に世界中の注目が集まっている。
◆ウーバーを取り巻く各国の状況
(1)ドイツ
ドイツではベルリンやフランクフルトのタクシー協会による提訴を受け、ドイツ全土でUber禁止の判決が出た。これは上告で覆されたものの、2014年9月には、ベルリンとハンブルグの法廷で、自治体はこうしたサービスがドイツの法律に違反していると判断すれば禁止できるとの判決が下された。
(2)スペイン
2014年12月、Uberのドライバーがサービスを行うための正式な許可を受けておらず、許可を受けているタクシーの運転手と不当に競合しているとして、Uberに同国でのすべての営業を停止するよう命じた。
(3)台湾
台湾の交通当局は2014年12月、米ウーバー・テクノロジーズのタクシー配車サービスが「法に違反している」とし、同社ウェブサイトとアプリへのアクセスが遮断可能かどうかを調査していると明らかにした。交通部のLiang Guo Guo氏は、ウーバーは情報サービス提供の認可を受けているが、輸送サービスの認可は受けていないと述べた。
違反行為に対する同社への罰金は、2014年12月時点で300万台湾ドル(9万5102ドル)超に達する。
当局は、ウーバーのサイトやアプリへの台湾でのアクセスについて、遮断する法的権限などがあるかどうかを調査しているという。
(4)韓国
韓国ソウル警察庁観光警察隊は、2014年3月17日、最高経営責任者(CEO)と、提携先の韓国レンタカー会社「MKコリア(MK Korea)」を、旅客自動車運輸事業法違反で在宅起訴したと発表した。ウーバーは韓国でハイヤー配車だけでなく、「Uber-X」というタクシー運転の免許を持たない一般人が自家用車やレンタカーを利用して客を乗せ運賃をもらうサービスを斡旋していた。これが無許可タクシー業(白タク)に当たると警察は判断している。有罪なら最大で禁錮2年または罰金2000万ウォン(約220万円)の刑に相当する。
(5)インドネシア
ウーバーはインドネシアにおいて今年の1月30日からサービス提供を開始した。ウーバーが営業を行っていたバンドン市のリドワン・カミル市長は、公共交通免許のないまま営業している点を重視し、同社の事業を違法と判断した。ただ、市政府からは処分の通告は受けておらず、引き続き営業を続けている。
(6)メキシコ
ウーバーに対する取り締まりを当局に要求するために、メキシコ市内のタクシー業者による抗議運動が行われた。これに対し、ウーバーをはじめとする代替カーサービスの支援者は、タクシー業者大量の苦情をSNSに投稿した。
このような状況を受け、現行法ではカバーできていない新たなカーサービスに関する規則を議論すべく、市当局は公開討論会の開催を計画している。その一方で、交通巡査は、無認可タクシーとして利用したという理由でウーバーの車を押収したり高額な罰金を課したりして厳しく取り締まっている。
ウーバー運転手の中には、特に酒を飲んだ客の奪い合いが最も激しい週末の夜に、罵倒されたり、暴力を振るわれたりしたと報告した人もおり、負傷者が出ることもあったという。
(7)日本国内
日本では、2013年11月に進出(本格運用は2014年3月)し、現在東京の一部エリアを中心に展開している。
国土交通省は、2015年2月に福岡でウーバーが実験的に実施した「みんなのUber」に対し、営業許可を受けずに自家用車で営業する「白タク」に該当し道路運送法に違反する可能性があるとして、実験の中止を呼びかける行政指導をした(後述)。
◆Uberの問題点
Uberとは、米国ウーバー・テクノロジーズが手掛ける、スマートフォンのアプリを使ってタクシーやハイヤーの即時配車ができるサービスである。サービスを展開する都市ならどこでも2タップで車が呼べ、支払いは登録済みクレジットカードで自動的にできる。
主な問題点は、以下の通りである。
(1) 道路運送法違反
他人の需要に応じて有償で自動車を使用して旅客を運送する事業には許可が必要となり(道路運送法2条3項、4条1項)、これに違反した者には3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金が科せられる。また、事業として行わなくても、自家用車を有償で運送の用に供する行為は禁止され(同法78条)、違反者には1年以下の懲役もしくは150万円以下の罰金が科せられる。加えて、国交省通達によればこれらの運転者を利用者に斡旋する行為も道路運送法違反となる。
このように、同法の規制対象となるかは有償であるか否かにかかっている。
「Uber-X」は有償の運送を仲介するアプリであり、白タク行為の斡旋として日本では違法となる。
「Uber-X」の発展形である「みんなのUber」は、無償の運送を仲介するものであり同法には反しないとされていた。しかし、福岡での実験的実施においては、乗客から運賃は徴収しなかったものの、一般から募集したドライバーに対し「走行データ提供料」として走行時間に応じた対価を支払っていた。ドライバーが受領した金銭が一般的なタクシー代金と同程度になる点、ドライバー募集の際に殊更金銭を強調していた点等から、有償性が認められると国交省は判断している。
(2)責任の所在
ウーバーは輸送手段の探し手(乗客)と輸送手段の提供者(運転手)を結びつけるITサービスである。運転手はウーバーではない第三者であるため、ウーバーは彼らの行動に関して一切責任を負わない。このため、利用者は自己責任でサービスを利用することになる。
コメント
ウーバーやアマゾンのドローン配達サービスにも見られるように、米国の企業においては、自由な発想による新たなサービスの開拓を行うことにより、今まで注目されていなかった議論を世に喚起し、利害調整のために法整備がなされるといったケースが少なくない。
法務の役割は、一義的には、既存の法律を踏まえた上での経営のためのリスク管理にある。法律の遵守は当然の前提である。もっとも、法改正や行政解釈の変更は社会情勢の変化に伴い常に生じるものであり、さらに、個別具体的な事情により判断が異なることもある。今回のウーバーについては、国交省に対する説明が不十分で対応も誠実とは言えず、違法の可能性があるものでもとにかく実施し既成事実を作ろうとしたとも見られるため、否定する向きは強いものの、新たなサービスへの対応についての議論を世に喚起したことには一定の意義があるといえる。
新しいテクノロジーによるサービスの開拓には、法的問題、利害調整等乗り越えなくてはならないハードルも多いが、その中でなお新たな価値を創出できるかという点も、法務担当者に求められている。
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