松本人志氏の性加害疑惑から考える、芸能タレントとの出演契約
2024/01/15 契約法務, 民法・商法, エンターテイメント
はじめに
昨年末、週刊文春に掲載された人気お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志氏による女性らへの性的加害疑惑。
事実無根を主張する松本氏は週刊文春に対して法的措置をとる姿勢を見せており、裁判に集中するために活動を自粛すると発表しています。
一方で、松本氏は多くのレギュラー番組、CMなどを抱えています。
過去にも、人気絶頂だったタレントが不祥事を起こし、出演していたテレビ番組やCMなどが打ち切りとなり損害賠償の支払いが取り沙汰されたケースが確認されています。
タレントを広告等で起用する企業側としては、タレントの万が一の不祥事に備え、出演契約の内容をあらかじめ吟味する必要があります。
複数女性から性的被害の証言
人気お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志氏から性的な被害を受けたと女性が証言した内容が、週刊文春に掲載されました。9年前に都内のホテルで性行為を迫られたとするものです。最初の記事が出て以降、他の女性らの証言も記事に掲載されており、東京以外にも福岡などで同様の被害にあった女性らがいたと報じられています。
いずれも松本氏の後輩芸人が飲み会をセッティングした後に被害にあったということで、最初の記事に登場した女性に松本氏を紹介したスピードワゴンの小沢一敬氏はコンビで無期限での活動休止を発表しています。
続いて、1月8日には、松本氏も活動休止を発表。
報道当初より、松本氏が所属する吉本興業は、「当該事実は一切なく、記事はタレントの社会的評価を著しく低下させ、その名誉を毀損するものです」などとコメントを発表していましたが、松本氏より、
・活動を継続することで関係者や共演者に迷惑をかけること
・裁判に注力したいこと
などの理由で、芸能活動の休止の申し出があり、休止する方向になったということです。
CM打ち切りなどで賠償請求の可能性も
松本氏はテレビのレギュラー番組を7本持つほか、アルコール飲料や消費者金融の企業CMにも出演しています。
報道が出た際には、一部の番組スポンサーが、松本氏が司会を務める番組での提供クレジットを出さないなどの対応をしたほか、年末の特番ではACジャパンのCMが放映されることもあったということです。
1月中旬時点ではCM自体は放送されていますが、もしCMの打ち切りなどがあれば賠償金などの問題が生じるおそれがあります。
タレントがCMなどに出演する際は、所属事務所を通じて企業と出演契約を締結します。
一般的に、契約書には商品イメージの低下につながる行為の制限が盛り込まれており、たとえば、不倫・刑事事件での逮捕などの違反行為があった場合に違約金を支払うとする内容が記載されています。
過去の事例では、不倫報道のあった俳優の東出昌大氏は、当時自動車メーカーなど4社のCMに出演していましたが、不倫が報じられると、CMが打ち切り。契約書に則り、損害賠償が請求されたとも言われています。
さらに松本氏の場合には、海外の動画配信大手のオリジナル番組にも出演しています。
配信番組の場合にも出演者全員が出演契約書を交わすということですが、海外企業との場合にはさらに厳格な内容となることが多いと言われています。
過去には、コカイン使用で逮捕された俳優・ピエール瀧氏がディズニーアニメ映画の声優を担当していましたが、逮捕を受けて声優交代が発表され、違約金や損害賠償の総額が30億円にのぼるとする報道があったほどです。
出演契約に具体的に盛り込みたい内容
企業がCMなどでタレントを広告塔として起用する場合、広告出演契約書に必ず「保証」と「契約解除・損害賠償」についての規定を盛り込むことが重要となります。
こうした条項により、タレントなどが不祥事を起こした際のスムーズな契約解除や損害賠償請求が可能となります。
具体的には以下のような内容を盛り込むことを検討しましょう。
劇場・音楽堂等 契約実務ガイドブック(令和 4 年度文化庁委託事業「芸術家等実務研修会」)より 第11条(保証)
① 実演家が犯罪の嫌疑を受けないこと及び新聞雑誌、SNSその他にてスキャンダル等社会的評価の悪化につながる内容の報道・公表がされないこと。 ② 実演家が未成年の場合、本契約の締結及び履行について法定代理人の同意を得ていること。 第14条(契約の解除/損害賠償)
2 前項による解除の有無にかかわらず、主催者及びプロダクションは、相手方による本業務の不履行、本契約上の義務の不遵守により被った損害につき、相手方に対して損害賠償請求することができる。 |
コメント
CM出演中のタレントが不祥事を起こした場合、実務上は、事務所側が(1)打ち切りとなる広告の制作費負担、(2)広告の作り直しにあたり、代替となるタレントの無償提供などを提案することで手打ちとなるケースが少なくないと言われています。
過大な違約金の支払い回避、企業との関係性の継続などが主な目的ということです。企業としては、事務所側から、こうした有利な提案を引き出すためにも、契約上、解約や損害賠償を請求する権利をしっかりと確保しておく必要があります。
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