ネーミングライツ契約は当事者だけのものではない?
2016/02/01 契約法務, 民法・商法, その他
1 ネーミングライツとは
ネーミングライツとは、スポーツ施設等の名称にスポンサー企業の社名やブランド名を付与する権利(命名権)のことである。1990年代後半から米国のプロスポーツ施設を中心に急速に広まっていき、日本でも施設維持の資金を調達することなどを目的として普及していった。国内の公共施設として初の事例となる「味の素スタジアム」は多くの方がその名称をご存知かと思う。
現在では、スポーツ施設に留まらず、歩道橋や道路、駅、公衆トイレなどでもネーミングライツが積極的に導入されている。
今回は、ネーミングライツについて触れてみようと思う。
2 メリット
施設等の所有者・管理者側のメリットとしては、施設維持費の負担を軽減できることが挙げられる。施設利用料だけでは経費を賄うことが難しい状況において、資金を確保することが可能となる。
これに対し、ネーミングライツを購入する企業側のメリットとしては、宣伝効果や社会貢献による企業イメージの向上が挙げられる。施設は多くの利用者が見込めるため、施設等に企業名やブランド名、商品名を付与することで、多くの人に認識してもらうことが可能となる。
3 デメリットや問題点
契約当事者の双方がメリットを得られる関係にあるネーミングライツは、一見デメリットや問題点がないようにも思えるが、実際には、次のようなデメリットや問題点が存在する。
① 利用者の混乱
ネーミングライツ契約の内容の変更や期間の満了により、短期間に幾度も施設等の名称が変更されることがあるため、利用者が混乱し、地域施設として浸透しない可能性がある。そして、地域施設として浸透しなかった場合は、広告価値や企業イメージが低下する結果に繋がることも十分にあり得る。
② イメージ低下の連鎖
購入した企業側に不祥事が生じた場合、名称を付された施設等のイメージまで損なわれる可能性がある。
③ 地域住民の反発
施設等の従来の名称を変更し、企業名等を付すること自体だけでなく、付された名称が施設名として適切か、といった点においても、地域住民の反発にあう可能性がある。また、公共施設に一企業の名称等を付与することが、公共性を喪失すると問題視する声もあるとのことだ。
④ 施設等の所在や機能の不明瞭化
施設等の名称から地名や施設機能の語句等が除外される結果、施設等の所在地や機能等が分かりづらくなってしまう。
ネーミングライツを導入し、施設等に名称を付する場合は、企業名やブランド名等を単純に付して宣伝効果を期待するというだけではなく、利用者や当該施設等がある地域住民に配慮し、その同意や理解を得ることも重要といえるだろう。
4 契約期間・金額
筆者が調べた限りでは、契約期間は2年~5年の短期間が多く、中には10年程度の長期間に及ぶものも存在した。金額は、対象施設が何か(スポーツ施設、歩道橋、道路等)や契約期間だけでなく、おそらくは施設の規模や所在場所等も加味して決定されていると考えられる。
冒頭で紹介した味の素スタジアムの契約期間と金額は次の通りだ。
「第1期契約が5年間(平成15年3月1日~平成20年2月末日)で12億円、第2期契約が6年間(平成20年3月1日~平成26年2月末日)で14億円。また、平成25年10月30日にネーミング・ライツ契約を更新し、新たな契約期間は、5年間(平成26年3月1日~平成31年2月末日)で10億円(いずれも消費税等別途)。」(※ 味の素スタジアムHPより)
5 おわりに
近年では、新たな財源の確保や地域活性化等を目的としてネーミングライツを導入する自治体も増加している。また、ネーミングライツは、対象をトンネルや海岸にまで拡大する動きを見せている。もっとも、企業側が募集自体を認識していないため、契約締結に至らないことも珍しくないようだ。また、最近では、名称に変わったものを付し、注目を集めているものもある。ネーミングライツを巡っては様々な動きがあるが、いずれにしても、契約当事者間の利益だけでなく、利用者や地域住民への理解を求める活動が重要な要素となる点には、留意しておく必要があるだろう。
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