東芝の不正会計と役員の損害賠償責任
2016/03/01 商事法務, 金融法務, 金融商品取引法, メーカー
はじめに
東芝の不正会計によって株価が下落し、損害を受けたとして株主ら45人が東芝と当時の役員5人に対し約1億7300万円の損害賠償を求めていた訴訟で、19日第一回口頭弁論が大阪地裁で開かれました。東芝は虚偽記載と株価の下落には因果関係はないとして争っています。今回は不正会計と損害賠償責任について見ていきたいと思います。
不正会計に対する損害賠償請求
株式会社が虚偽の記載等不正会計を行い、それによって株価が下落した場合には株主はその損失について民法や商法の一般不法行為の規定に基づき会社や役員に対して損害賠償請求することができます。その場合原告である株主は①違法行為②故意又は過失③因果関係④損害額、を立証しなくてはなりません。虚偽記載は違法な行為ですし、故意や過失も認められるでしょう。しかしそれによって株価にどのような影響が出たのか、因果関係と具体的な損害額を立証することは極めて困難でした。もし虚偽記載がなければ、本来どのような値動きをしていたかという仮定の話をしなくてはならないからです。そこで平成16年に株主の救済を目的として証券取引法が改正され、現在の金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)21条の2という規定ができました。
金融商品取引法21条の2
金商法21条の2は第1項から6項まで規定があり、一般不法行為法の問題点を補っております。
(1)要件の明確化
1項では、賠償責任が発生する要件として①有価証券報告書等の重要な書類に重要な事項の虚偽、不備、誤解させないために必要な事項の不備②縦覧期間内に株式取得③因果関係④株主が取得時に虚偽を知らなかったこと、を明示しています。
(2)責任の所在の明確化
そして有価証券報告書等の重要な書類に虚偽の記載等をし提出した場合、株式会社及び提出時の役員、虚偽が無いと証明した公認会計士等は損害の賠償をしなくてはならない旨定められております。そして2項では役員等は自分に過失が無いことを証明した場合には責任を免れるとしています。つまり会社自体は無過失を証明しても免責されない、いわゆる無過失責任を負います。
(3)損害額の推定
3項では、虚偽記載を行ったという事実が公表された日の1年以内に株式を取得し、公表日に引き続き株式を保有していた株主については、損害額を推定する規定が置かれています。具体的な推定額は、虚偽記載公表前1ヶ月の市場価格の平均額から公表後1ヶ月の平均額を引いた差額が損害額ということになります。これには上限が設けられており、損害賠償請求時に株式を保有している場合は取得価格から請求時の市場価格を引いた額が、保有していない場合は取得価格から処分価格を引いた額が限度額となります。その範囲内で損害額が推定されるということです。
コメント
以上のように金商法21条の2の規定によって不正会計による株価下落の損害賠償請求は平成16年以前に比べ、飛躍的にやりやすくなりました。この規定が存在していなかった時代は、具体的な損害額の算定とその立証に相当の労力を要していたと言われています。結局裁判所は立証不十分として請求棄却としていた事例も多数存在します。しかしこの規定によって損害額の立証不十分による棄却はなくなったと言えるでしょう。今回の東芝不正会計事件では、原告弁護団によりますと、虚偽記載公表1ヶ月前と公表後1ヶ月の株価平均額の差額は約106円と言われています。東芝の発行済株式数は約42億株ですので、今後損害賠償請求する株主の人数によっては膨大な額の賠償を命じられる可能性があると言えます。粉飾決算をした場合、金商法上の罰金、制裁のみならず株主から膨大な額の損害賠償請求がなされることにも注意が必要と言えるでしょう。
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