従業員に違法長時間労働をさせるリスク
2016/03/14 労務法務, 労働法全般, 小売
はじめに
東京都内の店舗で従業員に違法な長時間労働をさせたとして東京労働局は1月28日、店舗を担当する支社長や店長ら計8人と法人としてのドン・キホーテを、法定労働時間を越える労働をさせてたとして労基法違反で東京地検に書類送検しました。類似の事案として、ABCマートも違法な長時間労働を従業員に強いており、度重なる行政指導を受けても改善をしなかったため、去年の7月には、労基法違反容疑で法人としての同社と、労務担当取締役、店舗責任者2人の計3人が東京地方検察庁に書類送検されています。今回は、この2つの事件を参考にして、労基法違反が発生する原因と実際に違反した場合のリスクをご紹介します。
労基法違反が発生する原因
このような違法な長時間労働が起きてしまう原因は、
①従業員不足
②使用者の労基法軽視
が指摘されています。特に小売・外食・サービス業界などは、近年はさらなる人手不足により、長時間労働になりやすいと指摘されています。人件費を抑えるために、今いる少ない従業員に長時間労働をさせるわけです。また、日本は世界的に見ても、労働時間が長いという歴史があります。長く働くのが当然のように見ている使用者もいるようです。そのような労基法の軽視が、違法な長時間労働につながっていると言えるでしょう。
労基法違反を犯すリスク
しかし、労基法を無視し長時間労働を強いることには大きなリスクをはらんでいます。それは、
・イメージダウンによる売上の減少
・労基法に違反した場合の罰則
・割増賃金を支払うことによる多大な出費です。
①イメージダウンによる売上の減少
書類送検をされた日にABCマートは株価を下げることになりました。業界でも好業績とされていたABCマートですが、この事件で大きくイメージダウンすることになったと言えるでしょう。同じくドン・キホーテも株価を下げており、大きなイメージダウンは免れません。この2社はブラック企業というレッテルを貼られ、悪いイメージを付けられてしまい、売上にも悪影響があったようです。万一摘発を受けるような事態が発生した場合には、会社が社会からブラック企業・ブラックバイトなどのレッテルを貼られてしまうことになります。会社のイメージはその商品の売上に大きく寄与しており、イメージダウンによる売上の低下のダメージは計り知れません。
そのような企業では、商品・サービスの提供を顧客が敬遠する顧客離れが発生します。それが売上に直結し、ABCマートやドン・キホーテもまた一時期売上が低下しました。また牛丼チェ-ン店すき屋ではアルバイトが大量に辞め、一時休業する店が相次ぎました。従業員の退職が増加し、新しい人材を募集しても集まらない従業員離れも起こしています。従業員になろうとする者にもイメージダウンが付いて回るのです。
②労基法に違反した場合の罰則
労基法違反が発覚した場合の罰則も大きなリスクです。法定労働時間は労基法32条1項2項により、週に40時間、1日8時間が上限とされています。32条の法定労働時間の上限には例外があり、労基法36条1項によると、労使協定を締結し届出を行えば、32条の法定労働時間を延長し、労働させることができるのです。条文の番号から、「36(サブロク)協定」という名称で呼ばれる事が多いです。労基法36条は36協定に違反して労働させた場合、使用者は32条違反に問われ、119条により刑事上の罰則があります。119条には32条の法定労働時間違反の場合、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されると規定されています。支社長や店長など、事業場の責任者には使用者として刑事罰が科せられ、同時に法人に対しても事業主として罰金刑が科せられます。このように、使用者とともに法人にも罰則が課される規定を両罰規定と呼びます。ドン・キホーテやABCマートと同様な悪質な企業は、書類送検されてしまいます。最悪の場合実刑の場合もあり、実刑の場合は会社のイメージが大きくダウンするといえます。
③割増賃金を支払うことによる多大な出費
3つ目のリスクは割増賃金を支払うことによる多大な出費です。労基法37条は、使用者が労働者を時間外労働させた場合、割増賃金を支払わなければならないと定めています。残業代は、通常の賃金より割増された賃金を使用者に支払わせることで使用者にとって長時間労働を抑制させるインセンティブになることが期待されています。長時間労働が行われても残業代が支払われていない場合、労働者は使用者に対して残業代を請求できることになります。企業にとっては、刑罰(最高でも罰金30万円)よりも、残業代を法律に従って払う方が経済的には負担になるともいえるでしょう。長時間労働をさせると、大きな経済的負担が企業にのしかかってくるのです。
コメント
労基法を違反が発覚したことによるリスクは甚大です。ブラック企業対策のために厚生労働省が昨年4月、東京労働局と大阪労働局に過重労働撲滅特別対策班を設置しました。労基法違反に対する行政の取締はますます強化されていくことが予想されます。労基法を違反してしまう原因は先述のとおり、従業員不足と労基法違反のリスクの影響力の過小評価にあります。少子化問題から従業員不足はますます悪化することが予想されます。そのような場合になっても事業者は労基法を犯すリスクを計り間違えず、労基法を遵守することで、従業員が守られ、ひいては会社そのもののイメージをも守られることを再認識して欲しいと思います。
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