判例から読み解く「企業内アルコールハラスメント」
2016/03/16 労務法務, コンプライアンス, 民法・商法, その他
はじめに
企業では、昔から職場内での人間関係を円滑にするために、酒の席を通してコミュニケーションを図ることが多々続いていますが、時として それは宴会のような大人数で行われることもあれば、同僚同士または上司と部下といった形で行われることも珍しくありません。しかし、必ずしも酒の場が人間 関係を円滑にするとは限らず、反対に人間関係を悪化させてしまうことも多々見られます。そこで、企業としてはどのように向き合っていくべきでしょうか。
アルコールハラスメントとは?
そもそも、アルコールハラスメントの概念は、【同じ職場で働くものに対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為】とされています。(H24・3・15厚労省「円卓会議提言」)
そして、上司から部下へのアルコールハラスメントが行われ、それが当事者間で不法行為(民法709条)に該当した場合、.企業も使用者責任(民法715条)を負い、損害賠償責任を負うことも十分考えられます。
アルコールハラスメントに関する裁判例
この点、ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件と呼ばれる、アルコールハラスメントによる損害賠償責任が認められた裁判例があります。
<事件の概要>
あるホテルの運営会社Yに勤務していたXは、上司Aから出張先の居酒屋でアルコールハラスメントとも受け取られる酒の強要を受け、また、他にもパワーハラスメントともみられる行為を多々受けたことにより、精神的苦痛を受け、適応障害を発症したとして、
Aに対して不法行為責任(民法715条)・Yに対して不法行為責任・使用者責任・職場環境調整義務違反
に基づきAとY社に対して慰謝料1000万円の支払いを求めました。
(1)第一審の判断
Aの飲酒の勧誘行為は、強要と言われても仕方がないものであったとはいえ、その飲酒の経過や態様等からみて、上司としての立場(地位・権限)を逸脱・濫用し、通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような性質・内容であったとは言い難い。したがって、Aは居酒屋において、飲酒に関連してXに対して不法行為と評価し得るほどのアルコールハラスメントを行った事実はないというべきである。と判示し、不法行為に該当する行為ではないとアルコールハラスメントに該当しないとしました。
(2)第二審の判断
Xは、少量の酒を飲んだだけでも嘔吐しており、AはXがアルコールに弱いことに容易に気付いたはずであるのに、「酒は吐けば飲めるんだ」などといい、Xの体調の悪化を気にかけることなく、再びXのコップに酒を注ぐなどしており、これは単なる迷惑行為にとどまらず、不法行為法上も違法である。と判示しました。
そして、「AはXに対して不法行為責任を負い、当該行為はY社の業務に関連してなされたものであるから、Y社は715条に基づき使用者責任を負う。」とされました。
コメント
このように、「業務上必要な注意・指導」と、「アルコールハラスメントとして、不法行為に該当するか否かの行為」の判断は非常に困難なものです。企業側がこのようなアルコールハラスメントが起こらないようすべき対策としては、アルコールハラスメント防止についての指導を行ったり、社内研修を行うなどの啓発活動を行うなど、環境を整備することが必要になってくるのではないでしょうか。
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