凸版印刷が越後製菓を提訴、特許権侵害について
2016/08/23 知財・ライセンス, 特許法, メーカー
はじめに
日経新聞電子版は19日、凸版印刷が鏡餅の包装に関する特許を侵害したとして越後製菓に対し、9種類の商品の製造販売の差止と約7100万円の損害賠償を求めて同日東京地裁に提訴したと報じました。越後製菓は特許権侵害はないと反論しております。今回は特許権侵害の要件について見ていきたいと思います。
特許権侵害とは
特許権とは特許発明を独占的に実施することができる権利を言います。特許権は登録されることによって発生し(特許法66条1項)、出願の日から20年間存続します(67条1項)。特許権を「実施する」とは、その発明が物である場合は生産、使用、譲渡、輸出入等をすることを、発明が方法である場合はその方法の使用を、発明が物の生産方法である場合はその方法により生産した物の使用、譲渡、輸出入等をすることを言います(2条3項1号~3号)。特許権の侵害とは、第三者が特許権者から許諾等を受けることなく業として特許発明を実施することを言います。特許権が侵害された場合には侵害の差止請求(100条)や損害賠償請求等(民法703条、704条、709条)を行うことができます。また故意に特許権を侵害した場合には10年以下の懲役、1000万円以下の罰金又はこれらの併科という罰則が規定されております(196条)。
特許権侵害の要件
特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有します(68条)。つまり特許権侵害とは特許権者以外の第三者が正当な権限無く業として特許発明の実施をすることを言います。以下具体的に見ていきます。
(1)「業として」
まず「業として」とは裁判例によりますと、「その事業に関連する経済活動の一環として」行うことを言います。一般的な業務としての反復継続性は必要とせず一回限りのものであっても該当することになります。
(2)「特許発明」
「特許発明」とは、侵害の対象たる特許のことであり、より具体的には特許出願の際に特許庁長官に提出した願書に添付される「特許請求の範囲」(クレーム)に記載された発明の内容を指します。
(3)「実施」
実施とは上記のように当該発明の対象を生産、使用、譲渡等を行う行為を言います(2条3項1号~3号)。そして具体的に特許発明を実施していると言えるかの判断にあたっては、まず「特許請求の範囲」の内容たる構成要件を画定します。構成要件とは発明を特定するために必要な要素を言い、通常複数の構成要件に分けられます。そして実施していると言えるためにはこのそれぞれの特許に含まれる構成要件の全てを満たす必要があります。たとえば①背もたれがある②4本足の椅子が構成要件である場合、背もたれがあり3本足の椅子を作っても侵害になりませんが、背もたれがあり4本足で肘掛けが付いた椅子を作った場合には侵害となります。①②全て満たしてしまうからです。
均等論
上記のように構成要件の全てを満たす場合に特許権侵害となりますが、逆に言うとわずかでも相違があれば侵害にならないことになってしまいます。ほんの僅かな違いを作れば実質的に同様の物を作っても侵害とならないことになり不合理と言えます。そこで一定の場合には差異があったとしても同じ技術的範囲内として評価する考え方が存在します。これを均等論と呼びます。日本でも判例上(最判平成10年2月24日)認められております。以下の5つの基準を満たす必要があります。
①異なる部分が特許発明の本質的部分ではないこと。
②異なる部分を特許発明のものと置き換えても目的が達成できること。
③置き換えることが容易に想到できたこと。
④模倣製品の技術が特許出願時の公知技術と同一かまたは容易に推考できるものでないこと。
⑤物憂製品の技術が特許出願時に意識的に特許の範囲から除外されたものでないこと。
以上の基準の全てを満たした場合には、特許発明の構成要件と実質的に均等なものであるとして特許技術の技術的範囲に属し、特許の侵害があったと認められることになります。
コメント
本件で問題となっている凸版印刷の特許内容は、鏡餅の形状をしたプラスチック製の包装容器と飾りの保持具です。中に餅を入れ橙や紙飾り等が一体となって正月の鏡餅として飾ることができるというものです。越後製菓が製造販売している製品も客観的にはほぼ同様のもので上記構成要件の全てを満たす可能性が高いと言えます。越後製菓側は透明な容器は飾り等を固定するためのものではなく内容物を衝撃や重さから保護するもので、特許権を侵害するものではないとしています。凸版印刷の特許請求の範囲の文言からは確かに橙や紙飾り等を止め付ける保持具というような記載がなされており、目的は鏡餅の形状を維持することのようにも取れます。越後製菓の主張する内容物の保護とは目的を異にすると言えるのかもしれません。この点裁判所がこの目的を限定したような文言をどのように評価するかによって結論が変わってくると言えるのではないかと思われます。以上のように特許出願や特許権侵害の事案が生じた場合には、特許内容たる「請求の範囲」の文言を精査して構成要件を吟味し、対応することが重要と言えるでしょう。
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