独占禁止法違反行為 自主申告による減免制度
2018/02/08 コンプライアンス, 行政対応, 独占禁止法
はじめに
公正取引委員会は、1月12日、JR東日本又はJR西日本に対して制服の供給をする複数の販売業者に対し、独占禁止法3条(不当な取引制限の禁止)の規定に違反する行為を行ったものとして、排除措置命令及び課徴金命令を行いました。
なお、違反行為を行った3社については課徴金減免制度により課徴金納付を免除または減額されています。今回は独占禁止法における課徴金減免制度について見ていきます。
事案の概要
公正取引委員会によれば、JR東日本又は西日本に制服を供給する複数社は、相互の中から誰が供給を行うのかを決定したり、発注単価が既存額以上となるように協力するなどの談合をしたとされています。公正取引委員会は、これらが独占禁止法3条に違反する判断し、関与した企業に対し、排除措置命令及び総額4529万円の課徴金納付命令を行いました。
これらに関与していた3社については、公正取引委員会に対し違反行為を自主的に報告したことから、独占禁止法7条の2により、1社につき課徴金納付の免除、2社につき課徴金の額のうち30%の減額がなされました。
課徴金減免制度
課徴金減免制度は、事業者が自ら関与したカルテルや入札談合について、その違反内容を公正取引委員会に自主的に報告した場合に、課徴金が減免される制度です。これは、カルテル・入札談合の発見、解明をしやすくして、競争の秩序を早期に回復することを目的としています。
減免を受けるためには、違反行為を行った事業者が自ら違反内容を報告して、資料を提出することが必要です。公正取引委員会が調査を開始する前に他の事業者よりも早く報告することで課徴金の軽減率が大きくなる仕組みとなっています。
具体的には、公正取引委員会によって調査が開始される前に最初に報告して資料提出を行った者は課徴金納付を免除され、2番目に行った者は50%を、3番目に行った者は30%を減額されることになっています。また、4番目又は5番目に行った者についても、公正取引委員会が把握していない事実について報告して資料を提出すれば30%が減額されます。
公正取引委員会による調査開始後であっても、一定期間内に公正取引委員会が把握する前の事実について報告し、資料を提出した場合には、30%の減額がなされます。
調査開始前かは、課徴金命令や排除措置命令に関して行う意見聴取の通知、調査のための強制処分、臨検・捜索・差押さえのいずれかがなされる前か否かによって決まります。
そして、減免がなされた場合、制度適用の透明性を確保する観点から、自主報告を行った事業者名は公開されることになっています。
課徴金減免制度の適用を受けた最近の他の事例
(1)平成29年3月13日 壁紙の販売業者に対する件
国内の壁紙販売シェアの大部分を占める3社が消費税増税に合わせての壁紙卸売価格引き上げを合意したことがカルテルにあたるとされ、総額約2400万円の課徴金納付命令がなされました。1社については自主申告により課徴金納付が免除されました。
(2)平成29年2月15日 中部電力株式会社が発注するハイブリッド光通信装置の製造販売業者に対する件
中部電力が発注する電力保安用通信機器の納入につき、3社が事前に話し合いをして受注予定者を決定していたことが談合にあたるとされ、総額約3億2千万円の課徴金納付命令がなされました。1社については自主申告により課徴金納付が免除されました。
(3)平成29年2月2日 消防救急デジタル無線機器の製造販売業者に対する件
自治体の消防本部等に設置するデジタル無線の入札に関し、5社が落札業者を話し合って決めたことが談合にあたるとされ、総額約63億4千万円の課徴金納付命令がなされました。1社については自主申告により課徴金納付が免除されました。
コメント
談合やカルテルは参加者が互いに利益を得る目的で秘密裏に話が進められることから、これまで発覚しずらく、摘発が難しい状況でした。2006年に課徴金減免制度が導入されたことで、自主申告による金銭的なメリットが得られることになり、以前よりも談合やカルテルが発覚しやすい状況になっているといえます。
不況下において企業が相互に利益を確保し合う意図のもと談合やカルテルが行われるようですが、そのような行為が発覚すれば課徴金納付による金銭的な支出を強いられることになり、企業にとって大きな負担となるでしょう。
企業内において不当な取引がなされていることが発覚した場合、いち早く報告することで課徴金の納付を免れる余地があるならば、それを行うことで金銭的な負担を免れることも選択肢の一つのなるのではないでしょうか。
また、企業において不当な取引に関与しないように防止することがより大切です。自社の取引担当者が、同業の他社同士で値上げの話をしている近くにいたというだけでも、カルテル合意に参加していたと認定されてしまう場合もあり得ます。そのような場合、担当者が気づかぬうちに不当な取引に関与することになってしまいかねません。
まずは、カルテルや談合の合意は明確な合意でなくでも、極めて些細な行為から合意が認定されてしまうことを周知することが必要です。そのうえで、近くにいる同業者間での値上げの話や入札の調整などの話が聞こえてきたらすぐに異議を唱えてその場から離れることをマニュアル化し、その場をすぐに離れて社内に報告した場合にはプラスの人事評価をし、その場からすぐに離れなかったことが発覚した場合にはマイナスの人事評価をするなどの制度を構築することも、不当な取引への関与を防止する一つの策となるのではないでしょうか。
そして取引担当者からの報告は、担当者が実際に遭遇した例として、より具体的な注意喚起の資料となるでしょう。
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