正社員と契約社員の格差に関する大阪地裁判決
2018/03/01 労務法務, 労働法全般
1 はじめに
2018年2月21日、正社員に支払っている手当の一部について、契約社員に支払わないとする日本郵便の労働条件は、労働契約法(以下「労契法」といいます)20条に違反するとする大阪地裁判決(内藤裕之裁判長。以下、「本判決」といいます)がありました。本稿では、働き手の雇用形態・昨年9月の東京地裁判決・本判決について、順番に見ていきます。
2 雇用契約の原則
労働者と使用者が雇用契約を締結すると、労働者は使用者に労働力提供債務を負い、使用者は労働者に対し賃金支払い債務を負います。賃金の中には、基本給のほかに諸費用として支払われる手当も含みます。
契約社員の場合であっても、企業と雇用関係に入れば、様々な労働条件について、双方の対話の下で決定することとなります。契約社員と正社員の労働条件については差異が設けられていることが多いですが、これは適用される就業規則が異なることによります。労働契約法20条は、有期労働契約を締結している労働者(典型的には契約社員)の労働条件を決定するにあたって、職務の内容等を考慮して、不合理なものであってはならないとしています。
3 働き手の雇用形態
(1) 雇用形態の種類
働き手の雇用形態には、①正社員②契約社員③派遣労働者④パートタイム労働者⑤短時間正社員⑥フリーランス⑦家内労働者⑧在宅ワーカーなど様々なものがあります。ここでは働き手の雇用形態について、本判決と関係のある①正社員②契約社員の2つについて紹介します。
(2) 正社員
正社員とは、正規雇用で企業に雇われた労働者をいいます。正規雇用とは、特定の企業(使用者)と被用者(労働者)との継続的な雇用関係において、被用者が使用者の下で従業し、使用者と期間の定めのない労働契約を締結する雇用形態を指します。終身雇用制度、年功序列を基本とした処遇がなされるという特徴があります。
(3) 契約社員
契約社員とは、使用者と期間の定めのある労働契約を結んで職務に従事する労働者をいいます。戦後の高度経済成長期においては常に人手が不足しており、労働者を囲い込むため、正規雇用が必要な状態でした。バブル崩壊後は不景気となり、各企業に節制が求められ、安価に労働力を確保するため、非正規雇用という概念が登場しました。正社員と異なり、継続的な雇用が保障されていないというところに特徴があります。
3 昨年9月の東京地裁判決
本判決と関連した裁判例として、昨年9月の東京地裁判決があります。この訴訟は本判決と同種のものであり、日本郵便と期間の定めのある労働契約に入っている契約社員が原告となり、労働条件について、正社員とは不合理な相違があると主張したものです。労働条件の中には休暇に関するものも含まれますが、ここでは手当の支払についてのみ取り上げます。
年末年始勤務手当と住居手当の支払いについて正社員とは不合理な相違があると認定され、年末年始勤務手当については正社員の8割、住居手当については6割を支給する義務のあることが明示されました。
4 今回の判決について
本判決では夜間特別勤務手当が争点となっておらず、扶養手当が新たに争点となりました。本判決では年末年始手当・住居手当・扶養手当の3つについて、正社員と同額を契約社員に支給する義務のあることが明示されました。理由は①手当の支給趣旨が契約社員にも妥当すること②職務内容に差がないことの2点です。今回の判決を受け、日本郵便は、「判決内容の詳細を確認し、対応を決める」とコメントしています。
●両判決の比較 (東京地裁判決→大阪地裁判決)
外務業務手当…棄却
年末年始勤務手当…8割の限度で認容→全額認容
早出勤務手当…棄却
夏季年末手当…棄却
住居手当…6割の限度で認容→全額認容
郵便外務業務手当…棄却
夜勤特別勤務手当…棄却→請求せず
扶養手当…請求せず→全額認容
5 今後の展望
使用者は労働者に対し、労働条件を明確にしなければなりません(労働基準法15条1項)。今回の判決は企業にとって、正社員と異なる労働条件を示す労働契約を契約社員と締結する際の1つの指針となるものと考えられます。
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