裁判例に見る定年後再雇用の労働条件
2018/04/11 労務法務, 労働法全般
はじめに
定年後の再雇用で賃金を退職前の約25%に減額する旨提示され慰謝料などの支払いを求めていた訴訟で先月1日、最高裁が上告不受理の决定を出していたことがわかりました。これにより会社側敗訴が確定したことになります。今回は定年後再雇用の労働条件をいくつかの裁判例から見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、北九州市の食品会社で正社員として働いていた原告の山本さん(63)は2015年3月に定年を迎えた際に会社側からパート勤務として正社員時の約25%の賃金を提示されたとされます。山本さんはフルタイムでの継続雇用を希望していたことから合意にいたらず退職となっており、従業員としての地位の確認と損害賠償を求め提訴しておりました。一審福岡地裁は業務の減少を理由に賃金引き下げの合理性を認め請求棄却。二審福岡高裁は収入75%減は定年前後の継続性・連続性が認められず違法とし会社側敗訴となりました。
定年と継続雇用
現在高年齢者雇用安定法では高年齢者の65歳までの雇用を確保するため、定年を65歳としていない企業に①定年の引き上げ、②継続雇用制度、③定年の廃止のいずれかの措置を義務付けております(9条1項)。つまり65歳まで雇用するか継続雇用制度を導入することになります。平成24年改正以前は労使協定により継続雇用対象者を選別することができていましたが、改正法により廃止となりました。既に労使協定がある場合は経過措置により平成37年3月31日までは選別を行うことができます(24年改正附則3項)。
定年後再雇用の問題点
上記のように現在では原則として定年後は65歳まで希望者を継続雇用することになります。その際に問題となるのが労働条件です。現行法では継続雇用を義務付けてはいますが、労働条件についての規定は存在せず依然として問題になりやすいと言えます。特に賃金に関しては多くの場合は定年以前より減額されるのが一般的ですが場合によっては労働契約法20条の問題に発展します。同条では有期雇用と無期雇用で業務内容や責任、職務内容と配置変更範囲などを考慮して「不合理」な格差があってはならないとしています。
定年後の賃金格差に関する裁判例
定年後再雇用での賃金格差で訴訟に発展したケースとして以前にも取り上げた長澤運輸の事例を見てみます。この事例は長澤運輸のトラック運転手が定年後1年契約で嘱託社員となっていたところ、業務内容が正社員と同一であるにもかかわらず賃金が2割り程度減額されておりました。一審は業務内容、責任、職務内容と配置変更の範囲など正社員と同一であり、その他相違を正当化する特段の事情も無いとして不合理な格差としました(東京地裁平成28年5月13日)。一方二審は職務内容や責任などは一審と同様に正社員と同一であると認めつつも賃金減額は一般的に行われており、企業側は労働者全体の雇用を実現する必要性があること、在職老齢年金制度があること、定年後再雇用はそれまでの雇用が一旦消滅すること、同社の経営状況などから減額自体が不合理とは言えないとしました。
コメント
本件で原告の山本さんは定年後もフルタイムでの再雇用を希望していたところ、パートタイムで賃金も定年前から75%カットという条件を提示されておりました。福岡高裁は定年後の極端な労働条件の悪化は継続雇用制度の趣旨にも反し、継続性・連続性も認められず違法であるとしました。そして最高裁も上告不受理とし高裁判決が確定しました。本件は長澤運輸のケースに比べて雇用形態もフルタイムからパートタイムに、賃金も75%減という格差が相当大きいものであり正当化するだけの事情も見いだせなかったものと思われます。近年継続雇用での賃金格差に関する裁判例は相次いでおり、長澤運輸事件の最高裁判決も今年夏頃には出されるのではないかと言われております。以上のように2割り程度の賃金格差は裁判所も合理性を認める可能性が高いと言えます。しかし格差が大きい場合はそれを正当化するだけの事情が必要となります。今後の最高裁判決を含め、再雇用の条件については慎重に検討することが重要と言えるでしょう。
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