消費者庁が相談例を公表、災害と賃貸借について
2018/09/12 不動産法務, 民法・商法
はじめに
消費者庁は6日、災害時などで発生する可能性のある賃貸不動産等に関するトラブルについて相談例とアドバイスを取りまとめ、公表しました。災害時は賃貸物件等で賃借人とトラブルが生じがちです。今回は災害時の賃貸借契約ついて見ていきます。
賃貸物件で生じうるトラブル
消費者庁の相談例によりますと、災害時に生じることが想定されるトラブル例として次のものがあります。まず災害で住むことができなくなった期間中の賃料支払義務、賃貸人から求められた場合の退去義務、賃貸物件に損壊が生じた場合の賃料減額、賃貸物件の修繕義務、屋根瓦落下等により他人に損害が生じた場合の賠償責任などがあります。以下賃貸借契約について民法の規定等を見ていきます。
賃貸借契約と賃貸人の義務
賃貸借とは、賃貸人が賃借人に物を使用・収益させ、これに対して賃借人が対価を支払う契約を言います(民法601条)。賃貸物件の所有者である賃貸人の義務としてはまず目的物件を使用・収益させる義務があります。そしてその使用・収益をさせるために必要な修繕義務があります(606条)。目的物件の保存に必要な場合の修繕は賃借人側は拒むことができません(同2項)。修繕義務の不履行は債務不履行となり解除、賠償の原因となり(415条)、またその間は賃料支払を拒むことができます(最判大正10年9月26日)。そして賃借人が修繕や補強等を行い必要費を支出した場合には賃貸人は直ちにその償還をする義務があります(608条1項)。必要費としては雨漏りの修繕や、壁の補強、壁の塗装、屋根の葺き替え、土台の補強などが挙げられます。
賃料が減額される場合
賃貸物件の一部が賃借人の過失によらないで一部滅失した場合は滅失の割合に応じて賃料の減額を請求することができます(611条1項)。残部では賃貸の目的が達成できない場合には賃借人は契約を解除できます(同2項)。災害などで一部滅失した場合は当然に賃料が減額されるのではなく、賃借人から減額請求されることによって減額されることになります。つまり一部損壊した場合は賃借人は減額請求か修繕請求を選択できるということです。
土地の工作物責任
「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵」があり他人に損害が生じた場合は一次的には占有者が、二次的には所有者が責任を負います(717条1項)。土地の工作物とは土地に接着し人工的に作られたあらゆるものを言い建物も含まれます。ここに言う瑕疵とは工作物が本来備えているべき安全性を欠く場合を言います。瑕疵と損害には因果関係が必要で、想定外の災害等の場合は責任が否定される可能性があります。占有者である賃借人が必要な注意を尽くし過失が無かった場合は賃貸人である所有者が責任を負います。
コメント
災害等で賃貸物件が損壊した場合、修繕されるまでは賃料支払いを拒むことができると考えられます。またその間住むことができなかった場合も同様です。賃料は目的物の使用・収益の対価であるからです。また目的物件が損壊し、使用・収益ができなくなった場合を除いて賃貸人は賃借人を正当な理由なく退去させることはできません(借地借家法28条等)。屋根瓦等が落下し第三者に損害が生じた場合はまず占有者である賃借人に責任が生じますが、賃借人に過失が無かった場合は賃貸人が責任を負います。しかし通常有すべき安全性を備えていれば責任は否定されると考えられます。以上のように賃貸借契約に関しては民法や借地借家法等に詳細な規定が置かれております。賃貸物件を扱っている場合や、自社保有不動産を賃貸している場合は災害時に備えこれらの規定を把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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