縫製会社を書類送検、労基法の強制貯金規制について
2018/10/31 労務法務, 労働法全般
はじめに
青森県十和田市の縫製会社「昭和ドレストワダ研究所」が外国人実習生の賃金の一部を強制的に貯蓄させていたとして26日、十和田労基署は労基法違反の疑いで書類送検していたことがわかりました。逃亡阻止が目的だったとのことです。今回は労基法が禁止する強制貯金について見ていきます。
事件の概要
報道などによりますと、「昭和ドレストワダ研究所」は2016年2月9日から2017年8月23日までの間、ベトナム人技能実習生7人に対し、本人名義の銀行預金口座に賃金の一部、計約28万円を強制的に貯蓄させ、預金通帳と印鑑を保管していたとされます。同社は「逃亡回避金」と称して残業代の一部を貯蓄させ、実習を終えて帰国する際に手渡すと説明していたとのこと。立件された7人を含め、少なくとも計約225万円の被害が確認されております。ベトナム人実習生からの労基署への申立で発覚したとされます。
労基法の強制貯金規制
労基法18条1項によりますと、使用者は「労働契約に付随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない」としています。これを強制貯金の禁止といい、使用者による不当な人身拘束や使用者の不当な利益を防止することを趣旨としています。違反した場合は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることがあります(119条1号)。
強制貯金の要件
強制貯金の具体的な要件としてはまず、「労働契約に付随して」行われることが挙げられます。これは労働契約の締結または労働契約の存続の条件とすることを指します。労働契約に明示されている場合や、貯蓄契約をしなければ雇い入れない、あるいは貯蓄契約をしなければ解雇するといったことが客観的に認められる場合が該当します。「貯蓄の契約」とは銀行等の第三者に貯蓄の契約をさせることで、「貯蓄金を管理する契約」とは通帳等の保管をする場合や社内預金のことを言います。退職積立金として従業員全員から賃金の一部を事業者が保管していた場合も強制貯金に該当するとされております。
任意貯金とは
労基法では強制貯金とは別に任意貯金というものが存在します。任意貯金とは「労働契約に付随」せずに、「労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理」することを言います(18条2項)。労働者が任意に使用者と契約を締結して通帳の管理や社内預金を委託するものです。任意貯金を行うためには使用者と労働組合、または労働者の過半数を代表する者と書面で労使協定を締結する必要があります。また労基署に届出た上で事業場内で周知させるための措置をとる必要があります(同3項)。そして社内預金である場合は利息をつける必要があり、労働者が返還請求をした場合には遅滞なく返還する義務が生じます(4項、5項)。これらの規定に違反した場合は所管の労基署長は任意貯金の中止命令を出すことができます(6項)。
コメント
本件で昭和ドレストワダ研究所は「逃亡回避金」の名目で残業代の一部を銀行口座に預金させ、預金通帳と印鑑を保管していた疑いが生じております。事実であった場合は「貯蓄の契約」や「貯蓄金を保管する契約」を労働契約に付随して締結させていたことになると考えられます。以上のように労基法は賃金の支払いには厳格な規制を設けており、強制的に貯蓄させることや通帳を預かることも原則禁止しております。従業員の福祉や福利厚生を目的とした場合でも労使協定や届出等が必要となり、かなり厳しい規制のもとで許容されております。外国人労働者を雇用している場合は預金通帳を預かったりしていないか、また従業員の賃金の一部を積み立てている場合は労使協定を締結しているか、今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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