シャルレへの賠償請求棄却、代表訴訟と経営判断原則について
2019/05/28 商事法務, 会社法
はじめに
女性下着販売の「シャルレ」(神戸市)が子会社に無理な貸し付けなどを行ったことにより会社に損害が生じたとして、同社株主が起こしていた株主代表訴訟で23日、神戸地裁は請求を棄却していたことがわかりました。請求額は15億2千万円に登るとのこと。今回は取締役の経営判断原則と代表訴訟について見直します。
事案の概要
報道などによりますと、シャルレは2007年から2012年にかけて子会社のエヌ・エル・シーコーポレーション(NLC)とシャルレライテックに対し貸し付けや増資を行い、その結果合計約15億2000万円が回収不能となったとされます。原告側の発表では、NLCの教育用タッチ式ボイスリーダーペンの海外事業に対して5億9500万円、ライテックの新規LED事業とその運転資金に9億2500万円を貸し付けたとのことです。それに際し、事業の将来性や資金の回収可能性について綿密な議論や見通しについての検討もなかったとして代表訴訟が提起されました。
取締役の対会社責任
取締役と会社の関係は雇用関係ではなく委任関係にあります(会社法330条)。そのため委任契約に基づいて取締役は会社に対して善管注意義務を負います(民法644条)。取締役が会社の業務を執行するにあたって、この善管注意義務に違反し会社に損害が生じた場合には任務懈怠として会社に損害の賠償をする責任が生じます(会社法423条1項)。この場合には原則として監査役が会社を代表し、当該取締役を提訴することとなります(386条1項)。
株主代表訴訟
このように取締役への責任追及は本来会社自身が行いますが、役員同士の身内意識や利害関係などから十分な追求がなされず、訴えも提起されないことも有りえます。そこで株主が会社に代わって訴訟を行えることとなっております(847条1項)。ここに言う株主は保有株式数の要件はありませんが、公開会社では6ヶ月の保有期間が必要です。そしてまず会社に提訴するよう請求し、60日以内に会社が提訴しない場合に自ら提訴できます(同条2項、3項)。ただし不正な利益や会社に損害を与える目的の場合は認められません(同条1項但書)。
経営判断原則
それではどのような場合に善管注意義務違反となるのでしょうか。取締役の経営判断にはある程度不確実な事項への判断が求められるため、会社に損失がでたら直ちに任務懈怠となるわけではありません。そこで①情報収集と分析に不注意な点がなく、②それに基づく判断内容自体に不合理な点がない場合は任務懈怠はないこととされております(経営判断原則、最判平成22年7月15日参照)。取締役に通常求められる情報収集と合理的な判断があれば責任はなにということです。
コメント
本件で原告側の発表によりますと、シャルレの監査役に対し2011年6月に会社法に基づき提訴請求を行ったところ60日が経過しても提訴されなかったことから代表訴訟の提起を行ったとされます。そして一審神戸地裁では請求棄却となりました。経営判断の是非は様々な事情を総合的に考慮して判断することから個々の裁判官の評価に依存するため結果が予測しにくいと言えます。今後控訴審での判断にも注目されます。以上のように取締役には適切な調査と合理的な判断が求められ、会社に損失が生じた場合には株主より追求がなされる可能性が生じます。子会社や系列会社に投資、貸し付けを行う際には株主等への説明等も同時に準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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