自動運転の電車が事故を起こした場合、システム開発会社は責任を負うか
2019/06/11 訴訟対応, 民法・商法, 製造物責任法
1 はじめに
報道によると、横浜市を走る無人運転の交通システム「シーサイドライン」新杉田駅で列車が逆走し、14人がけが、そのうち6人が骨折などの重傷を負いました。
近年では、アメリカで無人運転の自動車が走行実験中に事故を起こしており、無人運転車両が事故を起こした場合の責任の所在について議論が起こっています。
そこで、本記事では、「横浜シーサイドライン」での列車の逆走事故を受け、無人運転の電車が事故が起こした場合、運転システムの開発会社が損害賠償責任を負うかについて詳述します。
※参照:シーサイドライン25m逆走し衝突、人重軽傷 横浜(朝日新聞)
自動運転で死亡事故 ウーバー車両、米で歩行者はねる(日経新聞)
2 関連法令
(1) 製造物責任
製造者の責任を規定した法令として、製造物責任法があります。製造物責任者法で責任を負う要件は➀「製造業者」であること②「製造、加工(中略)した製造物」であること③「引き渡した」こと④「欠陥」があること⑤「他人の生命・身体・財産を侵害」したこと⑥「欠陥」と損害の間の因果関係です(製造物責任法3条)。
「製造物」とは、製造又は加工された動産をいいます。
動産とは、不動産以外の一切の有体物をいいます。
プログラムなどの電子データそれ自体は、電磁的記録として有体物とは言えないので、「製造物」に当たらないと考えられます。もっとも、ソフトウェアを組み込んだ製造物を作った場合、そのシステムは「有体物」の一部とみなされ、製造物責任が適用されるとする議論もあります。
「欠陥」とは当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます。(製造物責任法2条2項)。
欠陥の類型は①製造物が設計書通りに作られず安全性を欠く、製造上の欠陥②設計段階で安全性を欠いている設計上の欠陥③製造物の危険性、事故の可能性や事故を防止する情報を消費者に適切に与えなかった指示警告上の欠陥があります。
自動運転プログラムなどの最先端技術については、どの程度の品質を有していれば、通常有すべき安全性を備えているといえるかは一義的に明確ではないと考えられます。
ただ、製造物責任法4条では免責事由が定められており、「当該製造物をその製造業者が引渡したときにおける科学、または技術に関する知見によっては当該製造物に欠陥があると認識できなかった」場合、欠陥があったとしても、製造業者は製造物責任を負いません。
したがって、シーサイドラインの事件でいえば、仮に、ソフトウェアにつき製造物責任法が適用される場合、自動運転システムが備えておくべき安全性の程度、および当該欠陥の予見可能性が問題となってくると思われます。
(2) 民法上の責任
システムの開発会社が電車の乗客に対して責任を負う場合としては、民法上の不法行為責任(民法709条)が考えられます。
製造物責任法は民法上の不法行為責任の特則ですが、製造物責任法6条は「製造物の欠陥による製造業者等の損害賠償の責任についてはこの法律の規定による他民法の規定による。」とされており、製造業者の過失により不法行為責任が成立する場合、消費者は不法行為責任を製造業者に追求することも可能です。
民法上の不法行為責任は①故意・過失②権利侵害③被害者の損害④故意過失と損害の間の因果関係がある場合に認められます。
無人運転の電車が事故を起こした場合、②乗客の身体に怪我を負わせ、③乗客らに損害を生じさせています。また、④運行システムにミスがあった場合、そこから乗客らがけがをする以上、因果関係も明らかと思われます。
そこで、無人運転の電車が事故を起こした場合、問題になるのは➀故意・過失だと考えられます。
過失とは、予見可能性を前提とした結果回避義務違反をいいます。
具体的なプログラムの作成方法は分かりかねますが、例えば横浜シーサイドラインの場合のように、当該プログラムで逆走する危険があったと予見できたか、それが予見できたとして、当該プログラムが逆走する危険を排除できたかなどの点が重要になってくると考えられます。
3 コメント
運航会社にも無人運転の電車の事故につき過失がある場合、運航会社にも不法行為責任(民法709条)が成立し、システムの開発会社と共同不法行為(民法719条)になる場合があります。
その場合、運航会社も被害者との関係で、全額の損害賠償責任を負わなければならず、被害者と直接の関わりがある運航会社が最初に賠償金を支払うこともあります。
その後、運航会社がシステム会社に対し、過失割合に応じて求償請求していくと考えられます。
このような紛争を未然に予防するために、運航会社とシステム開発会社の間で、事故が起きた場合の賠償する範囲について事前の取り決め条項を締結しておくとよいと思われます。
また、システム開発会社が運航会社の求償請求に応じる資力が無い場合もあり得ます。そこで、運航会社とシステム開発会社の契約書において、システム開発会社にPL保険への加入を義務付ける条項を盛り込むと良いと思われます。
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