著作権料訴訟で音楽教室側が敗訴、判例から見る演奏権
2020/03/12 知財・ライセンス, 著作権法
はじめに
日本音楽著作権協会(JASRAC)が音楽教室のレッスンでの演奏に著作権料を徴収できるかが争われていた訴訟で東京地裁は先月28日、音楽教室側の請求を棄却していたことがわかりました。音楽教室側は3月4日付で控訴しております。今回は著作権の一部である演奏権と判例について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、2017年2月にJASRACが音楽教室で楽曲が演奏されることに対し著作権料を徴収する方針を示したことに対し、ヤマハ音楽振興会などを中心に音楽教室側が反発の声を上げ「音楽教室を守る会」を結成して同年6月に提訴していたとのことです。音楽教室側はレッスンでの演奏は「公衆」に対する演奏ではなく、またその目的も生徒に対する教育であると主張しており、これに対しJASRAC側は著名な判例をもとに講師の演奏は事業者の演奏と変わらず、生徒相手でも演奏権は働くと反論しておりました。
演奏権とは
著作権法によりますと、著作権には複製権や上映権、公衆送信権、展示権、頒布権など様々な権利が含まれているとされます(21条~28条)。その中に演奏権と呼ばれる権利が存在します(22条)。「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上演し、又は演奏する権利を専有する」とされております。著作権者以外の者が演奏するには予め著作権者の許諾が必要ということです。しかし一定の場合には著作権侵害が生じないとされており、その一つとして「営利を目的としない上演」があります(38条)。38条1項によりますと、「営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、公に上演」することができるとされております。
カラオケ法理とは
演奏権侵害が問題となった著名な事例として次のような事例があります。カラオケスナックでカラオケ機器を設置して有料で客に利用させていた行為が著作権侵害に当たるとしてJASRACが損害賠償請求をしたというものです。客による演奏が店の経営者による演奏と言えるのかが争点となっておりました。最高裁は店の管理のもとに客に演奏させ、それにより利益を得ていることから、客だけでなく店の経営者も著作物の利用者に該当するとして著作権侵害を認めました(最判昭和63年3月15日)。つまり①自己の管理下で演奏させ、②それにより利益を得ている場合は著作権法上の利用主体となるということです。この判例の考え方は一般にカラオケ法理と呼ばれております。
著作権侵害が生じた場合
著作権法では上記演奏権などの著作権が侵害された場合、または侵害されるおそれがある場合には差止請求をすることができます(112条1項)。侵害行為の停止や侵害組成物の破棄などを求めることができます。そして侵害行為により発生した損害の賠償を請求することもできます(民法709条)。また罰則として10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科が科されることもあり(119条1項)、法人に対しても3億円以下の罰金も規定されております(両罰規定124条1項1号)。
コメント
本件で東京地裁は、音楽の利用者は講師や生徒ではなく音楽教室自体であり、不特定多数の生徒を相手としていることから「公衆」に当たるとしました。また音楽レッスンは講師と生徒が互いに演奏して聴かせることを目的としており「公衆に…聴かせることを目的」とした演奏に当たるとしてJASRAC側の徴収権を認めました。ほぼこれまでのカラオケ法理を踏襲した判断がなされたと言えます。音楽レッスンでの演奏からも著作権料を徴収することには一部批判の声も上がっておりましたが東京地裁はほぼJASRAC側の主張を認めました。今後知財高裁での判断が注目されます。このように事業者自身が演奏しなくても、施設利用者に演奏させる場合には間接的に著作物を利用していると判断されます。演奏等を行える場所を提供する際にはこれらの判例法理を留意しておくことが重要と言えるでしょう。
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