ヤマハ子会社が合併へ、合併手続きについて
2020/08/12 商事法務, 戦略法務, M&A, 会社法, メーカー
はじめに
ヤマハグループは5日、ヤマハトラベルサービスとヤマハコーポレートサービスを合併する旨発表しました。新型コロナウイルスの影響による事業規模の縮小から経営効率化を図ることが目的とのことです。今回はM&Aの1つである吸収合併について見ていきます。
事案の概要
ヤマハの発表によりますと、新型コロナウイルスの影響により国内外の旅行者が急減し、今後も事業規模の回復が見込めないことから、ヤマハトラベルサービスを消滅会社、ヤマハコーポレートサービスを存続会社とする吸収合併を行うとしています。効力発生日は今年10月1日とされ、合併後は存続会社であるヤマハコーポレートサービスが旅行業の認可を取得してヤマハトラベルサービスの事業を承継し、人員の配置転換と雇用の維持を図るとのことです。ヤマハコーポレートサービスの株式はヤマハが100%保有しており、ヤマハトラベルサービスの株式もヤマハが70%保有しております。残りの30%はヤマハ発動機が保有しております。
吸収合併とは
吸収合併とは、一方の会社を他方の会社が吸収することで1つの法人となり、資産や権利・義務を包括的に承継する組織再編の一種です(会社法2条28号)。これにより両者が保有するノウハウや流通ルート、ブランド力などを共有し生産性や競争力の強化が期待できます。合併の当事会社となれる会社には原則的に制限はなく、株式会社や合名会社、合資会社や合同会社も自由に合併することが可能です(748条)。ただし清算中の会社を存続会社とする合併や破産手続中の会社は合併が制限されます(474条)。また金融業などの許認可が必要な事業や、一定規模の会社は監督官庁や公取委の許可等が必要です。
吸収合併の手続きの流れ
吸収合併の手続きの流れは次のとおりです。①合併契約書等の作成、②債権者等への説明と取締役会での承認、③合併契約の締結、④債権者への催告・公告、事前開示書類の備え置き、⑤株主総会での承認決議、⑥効力発生、⑦事後開示書類の備え置きと合併登記となります。株主総会での承認決議は原則として特別決議となりますが(783条、309条2項12号)、消滅会社の株主に交付される対価が譲渡制限株式である場合は特殊決議(309条3項2号)、合名会社等の持ち分となる場合は全株主の同意が必要となります(783条2項)。債権者への公告・催告は、官報公告に加えて日刊新聞または電子公告を行えば個別の催告は省略できます。
簡易・略式合併
存続会社が消滅会社側に交付する対価の帳簿価格が純資産額の20%を超えない場合には存続会社側で株主総会での承認決議を省略することができます(796条2項)。これを簡易合併と言います。この場合には会社および株主への影響が小さいためです。しかし対価が自社の譲渡制限株式の場合や差損が生じる場合、一定の株主が反対した場合にはやはり原則どおり承認決議を要します。そして相手会社が自社の特別支配会社である場合も自社での承認決議は省略できます(796条1項)。これを略式合併といいます。特別支配会社とは自社の議決権の90%以上を保有する株主を言います。この場合には可決されることが明らかであるため、わざわざ株主総会を招集する必要がないということです。ただし略式合併でも、対価が譲渡制限株式の場合は両社において承認決議を省略できません(784条1項但書、796条1項但書)。
コメント
本件で吸収合併の当時会社となっているヤマハトラベルサービスはヤマハの100%子会社となっております。またやまはコーポレートサービスはヤマハが70%、ヤマハ発動機が30%株式を保有しております。しかし両社が互いに保有しているわけではないことから略式合併の要件は満たさず通常通り承認決議を要します。今後効力発生日の10月1日までに臨時株主総会による承認がなされるものと予想されます。以上のように吸収合併は場合によっては株主総会での決議を省略できるなど簡易な手続きによることも可能です。グループ会社内の不採算会社を整理・再編し人員や資金を有効に活用することができます。原則的な手続きと、簡易的な手続きの要件を正確に把握してM&Aに臨むことが重要と言えるでしょう。
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