リサイクル業者がキャノンを提訴、独禁法の取引妨害について
2020/10/29 独禁法対応, 独占禁止法, メーカー
はじめに
インクカートリッジの仕様を変更してリサイクルできなくしたのは独禁法に違反するとして、リサイクル品製造販売業者である「エコリカ」(大阪市)はキャノンに対し計3千万円の損害賠償等を求め大阪地裁に提訴しました。インクを再充填しても使用できなくなったとのことです。今回は独禁法が規制する取引妨害について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、エコリカはキャノンの使用済みインクカートリッジを回収してインクを再充填し、純正品よりも2割から3割安く販売してきたとのことです。キャノンは平成29年からインクを再充填しても残量を初期化できないようICチップの仕様を変更したカートリッジを販売しました。このカートリッジではリサイクルしたカートリッジではプリンターに残量が表示されないとされます。エコリカ側はキャノンの仕様変更を独禁法が禁止する取引妨害に当たるとし大阪地裁に提訴しました。
競争者に対する取引妨害とは
独禁法2条9項6号による公取委の一般指定15項では、「国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもってするかを問わず、その取引を不当に妨害すること」が不公正な取引方法の1つとして禁止されております。競争事業者の取引相手に対し、競争事業者よりも安く、または高品質な製品等を提示して顧客を奪うといった場合、それは正常な競争行為によるものであって何ら問題はありません。しかし不当な方法・手段によって取引を妨害した場合は独禁法上違法となる場合があります。以下具体的に見ていきます。
取引妨害の行為要件
取引妨害の行為要件は条文上「契約の成立の阻止」「契約の不履行の誘引」「その他」となっております。実際の事例で問題となった行為は、競争者の取引相手を脅迫・威圧したり、競争者やその製品の誹謗中傷、市場内に障壁を設置するといった直接的なものから、競争者の顧客にすでに支払った代金分を負担して自己と契約させたり、競合するエレベーター点検業者に修理部品の供給を遅延させるといったものまで多種多様です。そして公取委はプリンターのインクカートリッジに関して、その製品の品質・性能の向上等を目的にICチップを搭載すること自体は問題はないとしつつも、その必要性の範囲を超えてICチップに記録される情報を暗号化したり書き換えを困難にして再生利用できなくすることや、再生品が装着されたらプリンタを停止するといった機能、またプリンタ本体による制御を複雑化し、これを頻繁に変更することによって再生利用できなくするといった場合は違法となる可能性があるとしております。
取引妨害の効果要件
取引妨害の効果要件、公正競争阻害性は競争手段の不公正と自由競争の減殺であるといわれております。脅迫や威迫、物理的な妨害行為は公正な競争秩序を歪めるものであり競争手段として不公正と言えます。また廉価なサービスの提供を売りに新規参入してくる業者を排除する目的で、その業者の取引先だけを狙い撃ちしてより低価格で顧客を奪うといった場合に自由競争の減殺が認められると言われております。このように取引妨害ではその行為の時点で公正競争阻害性が認められる場合や市場におけるシェアや影響力から判断される場合の両方が有りえます。
コメント
本件でインクカートリッジの再生販売を行うエコリカ側は、キャノンがインクカートリッジのICチップの仕様を変更しリサイクル品ではプリンター残量が表示されず使用できなくなったと主張しております。上記公取委の見解では製品の品質向上等の必要性を超えて再利用を不可能にする目的でのICチップの複雑化等は取引妨害等に該当し得るとしております。本件でも製品の品質や性能向上目的の範囲内か、それを超えた違法なものかが争点となるものと考えられます。以上のように競合するリサイクル業者や中古業者を排除するといった目的で正規品以外を利用した場合に正常に使用できなくする等の機能を付加した場合は取引妨害として違法となることがあります。また顧客拡大のための営業活動も不当な手段を用いた場合には同様となります。今一度自社製品や営業方法を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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