今年解禁予定、デジタル給与払いとは
2021/05/19 労務法務, 労働法全般, その他
はじめに
厚生労働省は先月19日、スマートフォンのアプリに給与を振り込むデジタル払いに関する制度案を公表しました。資金移動業者の5つの要件を課す方針となっております。今回は今年中にも解禁される可能性のあるデジタル給与払い制度について見ていきます。
デジタル給与払いとは
2020年7月に政府が閣議決定した成長戦略では、キャッシュレス決済サービスを利用して給与を銀行口座ではなくスマホアプリにチャージするデジタル給与払いをできるだけ早期に制度化を図ると明記されました。これにより長期的には日本のキャッシュレス化が進み、送金コストの軽減や日本全体の生産性が高まることが期待されます。しかし銀行以外の業者による資金移動には業者の破綻やハッキング、アカウントの乗っ取りといったリスクも指摘されており未だ反対意見も根強いと言えます。そこで厚労省の労働政策審議会労働条件分科会では資金移動業者として指定を受ける業者に5つの要件を課す制度案を示しました。
労基法の給与払い原則
労働基準法24条によりますと、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」とされます。賃金支払いには5つの原則があり、現物給与禁止、直接払い、全額払い、月1回以上払い、一定期日払いの原則が規定されているということです。給与は現物ではなく必ず「通貨」で、中間者や代理人を介さず直接労働者本人に、全額を月1回以上一定の期日を定めて支払わなければなりません。違反した場合には罰則が定められており、30万円以下の罰金となっております(120条)。つまり原則として本人に直接支払う必要がありますが、例外として労働者の同意を前提として、当該労働者が指定する銀行その他の金融機関の口座に振り込むことも可能です(労基法施行規則7条の2第1号)。
制度案の5要件
厚労省が発表した制度案では資金移動業者に次の5つの要件が課されることとなっております。①債務履行が困難になった時に速やかに保証する仕組みを設ける、②不正取引で損失が起きた時に補償する、③月1回は手数料なしで換金できるようにする、④業務・財務状況を適時厚労省に報告する、⑤業務を適正・確実に遂行する能力を有することが求められます。事業の破綻等に備えて保証機関と契約し、履行不能となっても数日以内に全額または100万円以上が支払われるようにします。またATM等で1円単位で、月1回は手数料なしで引き出せるようにするとされます。また労働者側に過失無くアカウントの乗っ取り等の不正取引が発生した場合は全額補填する必要があります。
コメント
公正取引委員会のアンケート調査によりますと、「PayPay」等のコード決済利用者の約4割はデジタル給与払いを検討しており、特に20代の若年層で積極的に利用したい意向を示しているとされます。また銀行口座をもたない外国人労働者への給与支払いもしやすくなり、キャッシュレス化促進にも寄与するものと期待されております。しかし一方で、過去にはNTTドコモの「ドコモ口座」を使用した預貯金の不正引き出し事件も発生しておりセキュリティ面でまだまだ課題が残っているのが現状と言えます。さらに公的機関ではない資金移動業者が多くの労働者の個人情報を管理する点についても懸念の声が上がっております。以上のように政府・厚労省は早期のデジタル給与払い制度の実現化を目指しております。今のうちから制度の把握と導入の検討を行っておくことが重要と言えるでしょう。
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