積水化学元社員を起訴、不正競争防止法の営業秘密について
2021/06/23 コンプライアンス, 情報セキュリティ, 不正競争防止法, その他
はじめに
大手化学メーカー「積水化学工業」(大阪市北区)の営業秘密を中国企業に漏洩したとして不正競争防止法違反の罪に問われた元社員の初公判が17日、大阪地裁で開かれました。被告は起訴内容を認めているとのことです。
今回は不正競争防止法の規制する営業秘密について見直していきます。
事件の概要
報道などによりますと、積水化学工業でスマートフォンのタッチパネル等に使われる導電性微粒子の開発部門に所属していた元社員の久保田被告(46)は平成30年8月に3度に渡って同社の営業秘密にあたる導電性微粒子の製造工程に関する情報を中国の電子部品メーカー「潮州三環グループ」に送信したとされます。
検察側の陳述によりますと、同中国企業からはSNSを通じて技術顧問として指導を求められ、この企業からも樹脂分野に関する情報得られれば社内での評価を上げられると考えたのではないかとのことです。久保田被告はすでに懲戒解雇されております。
不正競争防止法による規制
不正競争防止法2条1項各号によりますと、①営業秘密に関して、窃取、詐取などの不正取得やその使用・開示(4号)、②不正取得された営業秘密を悪意または重過失で取得、使用、開示(5号)、③取得後に不正取得されたことにつき悪意または重過失で使用、開示(6号)、④保有者から提示された営業秘密を不正目的で使用、開示(7号)などが不正競争行為として禁止されております。
不正取得されたものと知らずに取得した情報でも、事情を知った後に使用や開示した場合も違反となるということです。
違反した場合
営業秘密に関する不正行為に対してはまず差止請求が可能です(3条)。
営業上の利益が侵害され、または侵害されるおそれがある場合に侵害の停止や予防、情報の破棄などを求めることができます。
故意または過失により営業秘密が不正に取得、使用、開示され営業上の利益を侵害された場合には損害賠償請求が可能です(4条)。またそれにより営業上の信用が侵害された場合には信用回復に必要な措置を求めることもできます(14条)。
これらとは別に刑事罰として10年以下の懲役、1000万円以下の罰金が規定されております(21条1号~7号)。
営業秘密とは
不正競争防止法2条6項によりますと、「営業秘密」に該当するための要件は、秘密として管理されていること(秘密管理性)、生産方法、販売方法そのた事業活動に有用な技術または営業上の情報であること(有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)のすべてを満たすこととされております。
秘密管理性は企業が秘密として管理しようとする対象を従業員等に明確にすることによって予見可能性を与えることに意味があります。
どの程度の秘密管理措置を取る必要があるかは、企業の規模、業態、従業員の職務、情報の性質その他によって異なるとされております(経産省、営業秘密管理指針)。企業の規模が小さい場合はパスワード等によるアクセス制限等がなくても秘密管理性を肯定された例もあります(大阪地裁平成15年2月27日)。また世界的に希少な製造技術に関する情報という時点で従業員は秘密と認識し得るとして認められたものもあります(知財高裁平成23年9月27日)。
非公知性が認められるためには一般に知られておらず、用意に知ることができないことが必要とされ、秘密管理性、非公知性が認められる場合は基本的に有用性も認められるとされております。
コメント
本件で積水化学から中国企業に漏洩したとされる情報はスマートフォンのタッチパネルに使用される「導電性微粒子」の製造工程に関する情報とされております。通常このような情報は、それに携わる従業員であれば稀有な技術情報であり秘密として管理されるべきものと認識し得ることから営業秘密と問題なく認められるものと考えられます。
以上のように営業秘密の要件としては秘密管理性が最も重要と言えます。
当該情報には「マル秘」など秘密を表す表示をしたり、施錠可能かキャビネット等にするといった従業員が秘密であると認識しやすい管理措置を取ることが望ましいと言えます。
近年海外への企業情報の漏洩が深刻化しております。今一度社内での管理体制の見直しと社内での周知を徹底していくことが重要と言えるでしょう。
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