客の転倒事故で店側が逆転勝訴、不法行為責任について
2021/08/18 訴訟対応, 民法・商法, その他
はじめに
スーパーの床に落ちたカボチャの天ぷらで足をすべらせて転倒したとして、利用客の男性が店側に約140万円の賠償を求めていた訴訟の控訴審で4日、東京高裁は一審判決を取り消して請求を棄却していたことがわかりました。
店側に特段の措置をとる義務はなかったとのことです。今回は不法行為の要件について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、2018年4月、スーパー「サミット」(杉並区)の練馬区内の店舗で床に落ちていたカボチャの天ぷらを踏んだ男性客(35)が転倒し足を負傷したとされます。同社は事故への対応として男性に6万円を支払いましたが、男性側は通院費や慰謝料などとして約140万円の支払を求め東京地裁に提訴しておりました。
一審東京地裁は天ぷらを床に落としたのは従業員ではなく利用客であったと認定したものの、当時は混み合っており、店側に安全確認などを行う義務があったとして約57万円の支払を命じていたとのことです。
一般的不法行為の要件
民法709条によりますと、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うとされております。
一般的に不法行為責任の要件は、故意または過失、責任能力、権利・利益の侵害、損害の発生と因果関係が認められることとされます。
責任能力とは、自己の行為を法律上非難されるものと弁識しうる能力を言います。侵害の対象となる権利・利益は法律上保護の対象となっていればよく、景観や肖像権、プライバシー権なども含まれます。
そして損害とは不法行為があった場合となかったと仮定した場合での両者の差額を言うとされております(最判昭和56年12月22日)。
故意過失
不法行為の有無が問題となっている場合、通常は故意または過失の有無が主な争点となります。
故意とは結果の発生を認識・予見しながらあえて認容していた場合を言います。
そして過失とは、結果発生防止のために必要な注意を尽したかという注意義務違反の有無を言います。一般的には結果予見可能性を前提とした結果回避義務とも言われますが、判例上では個別具体的な事案に応じて条理や信義則に基づく安全配慮義務、管理義務、設備設置義務、説明義務として捉えられる場合もあります。
これらの注意義務に違反した場合に過失が認められることとなり、その立証は原則として原告側が責任を負います。
慰謝料請求
慰謝料とは苦痛や悲しみなど精神的損害に対する賠償を言います。民法710条によりますと、709条の損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても賠償をしなければならないとしており、慰謝料の賠償を規定しております。
その対象となるのは身体、自由、名誉だけでなく財産権侵害も含まれると言われております。ここに言う名誉とは人の人格的価値についての客観的評価を言い、事実を摘示するなどして社会的評価を低下させた場合に名誉侵害となるとされます。
コメント
本件で一審東京地裁はカボチャの天ぷらを床に落としたのは他の利用客であるとしつつも、商業施設での転倒事故350件のうち67件が落下物によるものとの消費者庁の調査も踏まえ、店側には落下物が生じないよう管理する注意義務があったとして過失を認めました。
これに対し二審東京高裁はレジ付近通路に商品が落ちるのは通常想定しがたく、混んでいても客が落下物を避けるのは困難ではないとして特段の措置を取る義務があったとは言えないとし、請求を棄却しました。一審では利用客が天ぷらを床に落とすことは予見し得ると判断したのに対し、二審ではレジ付近での落下は予見し得るとは言えないと判断したものと考えられます。
以上のように不法行為責任では過失の有無が主な争点となり、またその判断は分かれやすいと言えます。店舗内ではあらゆる事故などを想定して注意義務を尽くしていくことが重要と言えるでしょう。
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