東京地裁、退勤後のメールも業務時間と判断
2021/11/01 労務法務, 労働法全般
はじめに
長時間労働で過労死した服飾雑貨メーカーの男性(当時40)の遺族が起こした訴訟で28日、東京地裁は会社側に約1100万円の支払いを命じていたことがわかりました。退勤後のメール送信なども業務時間に当たるとのことです。今回は労働関係法における業務時間について見ていきます。
事案の概要
朝日新聞によりますと、服飾雑貨メーカー「エスジー・コーポレーション」(東京)に勤めていた男性は2015年11月に致死性不整脈で亡くなったとされます。死亡直前の2~6ヶ月の平均時間外労働は80時間を超えていたとして2017年8月に労災認定され、男性の遺族は翌年8月に会社に対し約7200万円の賠償を求め東京地裁に提訴したとのことです。会社側は男性が出た後のメールやリモート作業は業務時間には当たらないと主張していたとされ、タイムカードなどの時間管理はなされていなかったとのことです。遺族側はパソコンに残ったファイル更新履歴などで時間が確認できれば業務時間と判断できると主張しておりました。
労働法と業務時間
労働基準法では労働者の労働時間は1日8時間、週40時間を原則とし、労使協定と労基署への届け出がなければ時間外労働はできないとしております(32条、36条1項)。また深夜や休日労働では割増賃金の支払いが必要となり、1日の労働時間が6時間を超える場合には休憩時間を与える必要があるなど規定されております(34条、37条)。また使用者は賃金台帳に、労働者ごとに労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間、深夜労働時間等を適切に記載することが求められ(108条、施行規則54条)、記入していない場合、または故意に虚偽の記入をした場合は罰則として30万円以下の罰金が規定されております(120条)。このように労働関係法令では労働時間(業務時間)を厳格に把握することが求められております。
労働時間(業務時間)とは
厚労省のガイドラインによりますと、労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことを言い、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事している時間は労働時間に当たるとされております。使用者の指揮命令下に置かれていると評価される時間も労働時間として取り扱うとし、労働契約、就業規則、労働協約等にどのように定められていようと、客観的に判断されるとしております。指揮命令下に置かれていたかについては、労働者の行為が使用者から義務付けられ、またはこれを余儀なくされていた等の状況の有無から個別的に判断されます。着用を義務付けられた服装への着替え等の準備行為、即時に対応が求められ労働から離れることが保証されていない状態での待機、参加が義務付けられた研修や教育、訓練への参加なども労働時間に該当するとされております。
労働時間の適切な把握
またガイドラインでは労働時間の適切な把握のために使用者が講ずべき措置として以下のようなものが挙げられております。労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し記録すること。その方法としてタイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として使用者自ら確認し記録すること。労働者の自己申告によらざるを得ない場合は十分な説明と必要に応じて客観的なデータなどで実態調査を行うこと。労働者が労働時間を超えて自主的に事業場内にいる場合でも指揮命令下にあると認められる場合は労働時間として扱わなければならないことなどが例示されております。特にタイムカードなどの客観的な記録は重要と言えます。
コメント
本件で過労死した男性は、会社を出た後もメールの送信やリモート作業を行っていたとされます。会社側はこれら退勤後の行為は業務時間には該当しないと主張しておりましたが、東京地裁は退勤後でもメール送信やファイル更新のログに基づき労働時間に該当すると認定しました。またタイムカードが無いなど適切に業務時間を管理していなかったことや長時間労働を認識しながら対策を講じなかった点を認定し1100万円の支払いを命じました。以上のように労働法では従業員の労働時間を厳格に管理することが求められております。労働時間は名目を問わず使用者の指揮監督下にあるかで判断されます。タイムカードを採用している場合は、原則としてその打刻された時間が労働時間と事実上推定されますが、客観的な証拠がある場合はそこから実質的な労働時間が認定されます(東京地裁平成24年12月27日)。今一度自社での勤怠管理を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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