NEC子会社元社員敗訴、転勤拒否と懲戒解雇について
2021/11/30 労務法務, 労働法全般
はじめに
大手電機メーカー「NEC」の子会社の元社員の男性(55)が転勤を拒否して解雇されたのは違法であるとして解雇無効確認などを求めていた訴訟で大阪地裁は29日、請求を棄却していたことがわかりました。解雇は権利濫用には当たらないとのことです。今回は転勤拒否と懲戒解雇について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、NECの子会社であるNECソリューションイノベータ(東京)から大阪市内の別の子会社の事務所に出向していた元社員の男性は、同事務所の閉鎖に伴い会社から関東への配転か希望退職かの選択を迫られたとされます。男性は持病を抱える長男の育児などを理由に配転を拒否したところ懲戒解雇されたとのことです。男性は配転命令を拒否したことを理由とする懲戒解雇は違法であるとして解雇無効確認と慰謝料100万円などの支払いを求め同社を相手取り提訴しておりました。
解雇と種類
解雇とは雇用者側が労働者との雇用関係を一方的に打ち切ることを言います。その種類は懲戒解雇、整理解雇、普通解雇に分けられます。懲戒解雇は労働者が悪質な規律違反や非行を行った場合になされる解雇を言います。整理解雇は業績不振に陥った会社が人員削減の必要性や解雇回避の努力、人選の合理性、手続きの妥当性などの要件のもとに会社存続のために行う解雇を言います。そしていずれにも当てはまらない解雇を普通解雇と言います。労働者の能力不足や協調性の欠如、就業規則違反などを理由とする場合が当てはまります。普通解雇も適法となるための要件があり、客観的に合理的な理由や社会通念上相当性などが必要であり(労働契約法16条)、また30日前までに解雇予告をするなどの手続きも求められます。
懲戒解雇の要件
懲戒解雇に限らず会社が懲戒処分を行うためにはまず、どのような場合にどのような処分がなされるかを就業規則等に明記しておく必要があります。そして労働契約法15条では、労働者の行為の性質および態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は懲戒権の濫用として無効となるとされております。普通解雇と同様の要件が課されているということです。これらはそれぞれの事案ごとに個別具体的に判断されることから似たような事例でも判断が分かれる場合があると言えます。観光バスの運転手によるバスガイドへのセクハラ行為での懲戒解雇は有効とされた事例(福岡地裁平成9年2月5日)がある一方、宴会の席でのセクハラでの懲戒解雇は重すぎるとして無効となった例(東京地裁平成21年4月24日)。また高卒者募集に対し大学中退を秘匿していた事例(最判平成3年9月19日)では有効とされ、視力障害を秘匿していた重機運転手の事例(札幌高裁平成18年5月11日)では無効とされております。
転勤拒否と懲戒解雇
転勤拒否と懲戒解雇に関するリーディングケースと言われている事例によりますと、入社時に勤務地を限定する合意が無く、就業規則等にも転勤を命じることができる旨の記載があり、実際に頻繁に配転命令がだされていた場合は会社は原則として労働者の同意無く転勤命令が出せるとしました。しかし無制約に命じることができるわけではなく濫用は許されないとしつつも、業務上必要性がない場合、不当な動機・目的による場合、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合といった特段の事情がない場合は濫用とはならないとしました(最判昭和61年7月14日)。そして目黒区から八王子への配転を命じられ、通勤時間が約1時間長くなった事例では、通常甘受すべき程度を著しく超えるとは言えないとして懲戒解雇を有効としました(最判平成12年1月28日)。
コメント
本件では持病を抱える長男の育児を理由に大阪から関東への配転を拒否し懲戒解雇されたことが解雇権の濫用にあたるとして提訴されておりました。大阪地裁は長男の持病を考慮しても通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるとは言えないとし、社会通念上も相当なものと言え、解雇権濫用とは言えないとして原告側の主張を退けました。原告側は控訴する方針とのことです。以上のように配転命令を拒否したことを理由とする懲戒解雇は、配転命令が労働者にとって通常甘受すべき範囲を超えるかがポイントとなります。同様の事例で長女と次女に加え両親も病気であった例では通常甘受すべき範囲を超えているとされたものもあります(札幌地裁平成9年7月23日)。配置転換や異動を命じる際には業務上の必要性だけでなく労働者個人にどの程度負担を強いるのかも慎重に検討していくことが重要と言えるでしょう。
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