価格カルテル主導の会長らに賠償命令、株主代表訴訟について
2022/03/30 商事法務, コンプライアンス, 会社法
はじめに
建設会社「世紀東急工業」(港区)が道路舗装に使うアスファルト合材で価格カルテルを結んだとして公取委から課徴金納付命令を受けたことに対する株主代表訴訟で、東京地裁が元取締役らに計約18億3000万円の支払いを命じていたことがわかりました。同社は判決内容を精査し、協議した上で対応を決めるとのことです。今回は会社法の株主代表訴訟について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、世紀東急工業は2008年~15年、同業他社との間でアスファルト合材に関する価格の引き上げ幅や時期を確認するなどして価格カルテルを結んでいたとされます。これを受け公取委は19年7月、同社に対して約29億円の課徴金納付命令を出しておりました。同社株主は20年12月に、佐藤俊昭会長と元取締役3人を相手取り株主代表訴訟を提起したとのことです。4人は同カルテルにしたがって販売価格を決定し、社内通達で指示していたとされます。
会社役員の責任
これまでも取り上げてきましたが、取締役等の会社役員は会社に対して善管注意義務や忠実義務を負っており(民法644条、会社法355条)、これらに違反して適切な業務を行わなかった場合には任務懈怠責任を会社に対して負うこととなります(423条1項)。この任務懈怠となる場合としては、会社法違反だけでなく、金商法や独禁法、景表法などの法令違反の他に、契約等から生じる取引債務なども含まれると言われております。これら役員等の責任は本来会社自身が追求することとなりますが、同僚意識などで適切に責任追及が行われず、会社の損害が放置されることもありえます。そこで一定の要件のもとに株主が会社に変わって責任追求の訴えを提起できることとなっております。
株主代表訴訟の手続き
株主代表訴訟は公開会社の場合は6ヶ月前(定款で短縮可能)から引き続き株式を保有する株主が提起できることとなります(847条1項)。非公開会社の場合は6ヶ月制限はありません。株式数は1株でよく、単元未満株主であっても問題ありません。役員等への責任追求は本来会社が行うべきであることから、株主はまず会社に対して提訴するよう請求することとなります(同3項)。この提訴請求をした日から60日以内に会社が提訴しない場合に株主代表訴訟を提起できるようになります。ただし例外的に60日が経過するのを待っていては会社に回復することができない損害が生じるおそれがある場合にはただちに提訴することができるとされております(同5項)。株主代表訴訟が提起された場合、会社は補助参加することができます(849条1項)。役員側に参加する場合は監査役の同意が必要となります(同3項)。
経営判断原則
取締役等の経営活動が結果的にうまくいかなかったからといって任務懈怠責任を追求されていては、取締役等の判断が萎縮してしまい、積極的な決断ができなくなってしまいます。そこで一定の場合には会社に損害が生じても取締役等の判断に裁判所が事後的に介入しないとの考え方が存在します。それを一般に経営判断原則と言います。要件としては、経営判断を下すまでの情報収集および分析に不注意な点が無いこと、そしてそれに基づく経営判断の内容自体に不合理な点がないこととされます(最判平成22年7月15日)。その時の会社を取り巻く情勢やその業界での通常の経営者の有すべき知見や経験を基準として不注意や不合理な点がなかったかを判断されることとなります(東京地裁平成16年9月28日)。
コメント
本件で世紀東急工業は2008年から15年に渡って同業他社とアスファルト合材の価格に関するカルテルを結んでいたとされます。これは独禁法の禁止する不当な取引制限に該当し、それにより約29億円の課徴金納付命令を受けております。上記のように独禁法違反も任務懈怠に該当することとなります。東京地裁は、佐藤会長が過去に財務部長や執行役員を努めており、カルテルの存在や内容を認識していたと指摘し法令遵守義務に違反したとして賠償責任を認めております。以上のように会社の取締役等は会社に対し善管注意義務を負っており、法令に違反する行為を行った場合は会社に対し賠償義務を負うこととなります。独禁法違反などがあった場合は公取委だけでなく株主への対応も必要となります。今一度制度内容を確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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