発症後も業務軽減なしで賠償命令、うつ病と会社の対応について
2022/04/28 労務法務, 労働法全般
はじめに
職場でパワハラを受けてうつ病を発症し、復職後も仕事が軽減されなかったとして、従業員の男性が会社に損害賠償を求めていた訴訟で、大阪地裁が会社側に約1060万円の支払いを命じていたことがわかりました。復職後は手当を減額されていたとのことです。今回はパワハラなどからうつ病を発症した場合の対応について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、大阪市内の印刷版製造会社に勤務する男性社員(57)は、業務上のミスで社長から叱責されたり、異動を命じられたことがきっかけで2019年9月から仕事を休み、うつ病と診断されたとされます。翌年1月に症状が落ち着いてきたため、医師から過重な業務はしばらく控える方が望ましいとの診断を受けた上で復職したとのことです。しかし会社側は業務を軽減せず、働きが不十分であるとして手当を減額したとして会社と社長を相手取り、計約1970万円の損害賠償を求め提訴したとされます。
パワハラとは
厚生労働省の資料によりますと、パワハラとは、優越的な関係に基づいて、業務の適正な範囲を超えて、身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害することとされております。優越的な関係とは、必ずしも地位が上の者による行為だけでなく、同僚や部下など知識・経験面での優位に立つ場合も該当します。それらの者から、業務上必要性のない行為や業務の目的を逸脱した行為、その他社会通念に照らして許容される範囲を超える行為が該当します。また行為の類型として、身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害と6類型に分けられております。パワハラによってうつ病を発症した場合は労災と認定される場合もあり、損害賠償請求がなされることもあります。
従業員がうつ病を発症した場合
従業員がうつ病を発症し、またはその疑いがある場合、会社としてはどのような対応を取るべきでしょうか。従業員にその兆候が見られる場合は本人から現状に問題は無いか、悩みを抱えていないかなど丁寧に聞き取り、場合によっては医療機関への受診を勧めることが考えられます。うつ病であると分かった場合は業務の軽減やサポートする人員を付けるなどの配慮が必要です。業務に耐えられない場合は一定期間の休養を取らせる必要があるといえますが、休職させる場合はあらかじめ休職制度を就業規則で定めておく必要があります。なお会社から休職を命じる場合は、医師からの診断書に基づいて行う必要があり、本人が休職の意思が無いにもかかわらず、一方的に休職させた場合は訴訟に発展することも有りえます(東京高裁平成7年8月30日等)。
うつ病と安全配慮に関する裁判例
短い開発期間で、大規模製造プロジェクトと新製品開発のリーダーを任され、過大な業務を負担を課され、うつ病を発症して休職しその後休職期間満了により解雇された事例で解雇無効と安全配慮義務違反が認められた判例が存在します(最判平成26年3月24日)。この事例では、本人は社内健康診断や個人で受診した医療機関から、不眠症や神経症などと診断され、薬剤の処方も受けていたものの、それらの事情は積極的に会社側には報告していなかったとされ、損害賠償額からその点が相殺されないかが問題となりました。この点について最高裁は、自己の精神的な疾患に関する情報はプライバシーに属するもので、人事考課等への影響を危惧して通常は秘匿して就労を継続するものであり、会社は必ずしも労働者からの申告がなくても安全配慮の義務を負うとし、相殺することを否定しております。
コメント
本件で男性従業員は、業務上のミスに対して社長から叱責されたり、長年勤めていた部署から異動させられたりとパワハラを受けたことによってうつ病を発症し、復職後も業務軽減などの配慮を受けられなかったとして損害賠償を求めました。これに対して大阪地裁は、社長による叱責は業務上の指導して行われたものでありパワハラには該当しないとしつつ、復職後に業務軽減をせず、さらに働きが不十分であるとして減給した点は強い責任追求の手段であり、重い業務負担を命じたに等しいとし、医師の診断にも反するとして会社側の責任を認めました。以上のように従業員がうつ病になった場合、またはそのおそれがある場合は会社側に一定の配慮やケアが求められます。また単にうつ病であることを理由とした解雇もできないと言えます。また現在はパワハラ防止法も施行され、パワハラによるうつ病も労災認定の対象となっております。今一度社内の従業員のストレス管理状況を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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