証券等監視委、ファミリーマート株式に係る内部者取引に対する課徴金納付命令を勧告
2022/06/14 コンプライアンス, 会社法
はじめに
証券取引等監視委員会は2022年6月3日、ファミリーマート株式に係る内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告を行ったことをホームページ上で公表しました。今回の措置は、委員会によって行われた検査の結果、法令違反が認められたことから、金融庁設置法第20条第1項の規定に基づいて行われたものとなります。本記事では、同委員会の検査によって認められた法令違反の内容と、その後の措置について詳しく解説していきます。
法令違反が認められた経緯と内容
今回の課徴金納付命令の対象となったのは、ある法人(以下、「A法人」)の役員です。当該役員は、A法人と伊藤忠商事株式会社等との間で行われた、ファミリーマート株式の公開買付け契約締結の交渉に関し、伊藤忠商事の業務執行を決定する機関が、ファミリーマート株式の公開買付けを行うことを決定をした事実を知りながら、この事実が公表される令和2年7月8日午後5時10分頃より前の時点である同日午後1時48分頃に、自らファミリーマート株式合計2000株を買付価額合計349万7800円で買い付けていました。これが後日発覚したため、今回の課徴金命令勧告が出される運びとなりました。
インサイダー取引規制
金融商品取引法は、第167条第1項にて、いわゆるインサイダー取引を規制しています。ここで言うインサイダー取引とは、具体的には、上場株券の公開買付の関係者等が、その職務や地位により知り得た、公開買付の実施又は中止(以下、「公開買付等事実」)に関する未公表の会社情報を利用して、株券等を売買することです。インサイダー取引を許容されると、当該公開買付等事実を知り得ない一般の投資家が不利な状況で取引を行うことを余儀なくされ、証券市場の信頼性が損なわれることから、金融商品取引法で厳しく禁じられています。なお、公開買付等事実が以下の要件を満たす場合には、未公表の会社情報とはならず、インサイダー取引規制は解除されます。
①2つ以上の報道機関に公開したときから12時間が経過したこと
②公開買付開始・撤回の公告がなされたこと、公開買付撤回の公表がなされたこと
③公開買付届出書・公開買付撤回届出書が公衆の縦覧に供されたこと
④金融商品取引所等に対する通知が行われ、電磁的方法により公衆の縦覧に供されたこと
コメント
上述のように、金融商品取引法では、内部の事情を知っている人物が不当な利益を得ることを禁じています。今回の件はまさに「インサイダー」によって行われた金融商品の取引であって、これによって本人が利益を得ることは法律に違反していると認められます。インサイダー取引というと過去の村上ファンドの事例など、多額の取引や課徴金を想像しますが、今回のように小規模な取引でも取り締まりの対象となります。なお、課徴金の計算方式は、金融商品取引法第175条第2項第2号の規定により、公開買付け等の実施に関する事実公表の後2週間における最も高い価格である2,588円に当該有価証券の買付けの数量を乗じて得た額から、買付けをした価格にその数量を乗じて得た額を控除した額となります。つまり、(2,588円×2,000株)-(1,748円×200株+1,749円×1,800株)=1,678,200円が課徴金として本人に課されることになります。証券取引等監視委員会の「金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~」によると、2020年にインサイダー取引によって勧告扱いとなった件数は8件となっており、前年以降より大幅に減少傾向ではあります。しかし、本人の罪の意識がないままに勧告を受けるケースもあるため、内部情報を知り得る立場の者は金融商品の取扱には十分な注意が必要です。
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