「うまい棒」製造メーカーが書類送検、時間外労働規制について
2022/08/23 労務法務, 労働法全般
はじめに
スナック菓子「うまい棒」を製造する茨城県常総市の菓子メーカー「リスカ」で違法な長時間労働があったとして、労働基準監督署が同社と武藤秀二社長を書類送検していたことがわかりました。時間外労働が月に約120時間におよぶこともあったとのことです。今回は労働基準法の時間外労働規制を見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、リスカは1971年創業で、うまい棒などの菓子を製造してきたとされます。同社は2021年1~11月、常総市内にある石下工場の従業員9人に対して36協定で定められた上限を超えて働かせていた疑いが持たれております。1ヶ月あたりの時間外労働は100時間を上回っていたり、複数月で平均80時間を超過、最長の月で120時間を超えていた例もあったとのことです。常総労基署は社長と法人としての同社を書類送検しました。同社は従業員が集まらないことなどが背景となって、数年前から長時間労働が指摘されており、会社を挙げて再発防止に取り組むとしております。
労基法の労働時間規制
これまでも取り上げてきましたが、労基法では労働者の労働時間を厳格に規制しており、1日に8時間、週40時間が上限となっております(32条)。それを超えて時間外労働をさせるには労働者の過半数で組織する労組、または労働者の過半数を代表する者と書面で協定を締結し、所轄労基署に届け出る必要があります(36条)。これがいわゆる36協定です。この36協定で、時間外労働を行う業務の種類や時間外労働の上限を定める必要があります。以前は臨時的に上限を超えて時間外労働を行わなければならない特別事情が予想される場合に、特別条項付き協定を締結すれば事実上、上限無く時間外労働を行わせることも可能となっておりましたが、2019年4月(中小企業は2020年4月)施行の改正法によって法定上限が規定され、違反した場合には罰則が適用されるようになりました。
時間外労働の法定上限
現行労基法では時間外労働に上限が設けられており、原則として月45時間、年360時間までとなっております(36条4項)。臨時的な特別の事情があり、特別条項付きの協定がなされた場合でも以下の上限を守る必要があり、これに違反した場合には罰則として6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となっております(119条1号)。
(1)時間外労働が年720時間以内
(2)時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
(3)時間外労働と休日労働の合計につき「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」がすべて1月あたり80時間以内
(4)時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6ヶ月まで
過労死ラインとは
過労死ラインとは、病気や死亡に至るリスクが高まる時間外労働時間とされ、労災認定において死亡や自殺と労働との因果関係の判断基準ともなっております。具体的には時間外労働が発症前1ヶ月間におおむね100時間、または発症前2~6ヶ月間にわたっておおむね80時間を超える場合には業務と発症との関係性が強いと考えられております。また2021年7月の厚労省の有識者検討会ではこの基準自体は変更されなかったものの、過労死ラインを超えていなくても労災認定される場合があることとし、勤務時間の不規則性や移動を伴う業務、心理的負荷を伴う業務、身体的負荷を伴う業務なども判断要因に追加する見直しがなされております。
コメント
本件でリスカは2021年1月から11月頃にかけて同社工場で従業員を1ヶ月あたり100時間、複数月平均80時間を超えて労働させていたとされております。これは臨時的な特別事情がある場合の法定上限を超えるものであり労基署は労基法違反で書類送検しております。またこれは同時に過労死ラインを超えるものでもあり、従業員に疾病等が発生した場合は労災認定される可能性も高い水準と言えます。以上のように現行労基法は過労死ラインに合わせる形で時間外労働の上限を設けております。違反した場合には罰則も規定されております。近年新型コロナウイルスや国際紛争などに伴う物価、原油などの高騰の影響により経営状態が厳しい状況となっており、従業員の労働時間も長くなりがちといえます。今一度自社の勤怠管理について見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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