来年4月から雇用保険料引き上げへ、雇用保険制度について
2022/12/20 労務法務, 労働法全般, 法改正
はじめに
厚生労働省は来年4月から雇用保険の保険料率を労働者と事業者合わせて0.2%引き上げる方針であることがわかりました。雇用調整助成金の財源不足が原因とのことです。今回は雇用保険制度について概観します。
事案の概要
報道などによりますと、新型コロナウイルス感染拡大に伴う雇用調整助成金の特例措置により給付が膨らみ、財源不足に陥ってるとされます。そこで厚労省の専門部会は現在1.35%に抑えている保険料率を本来の1.55%に戻す方針を固めたとのことです。労働者の負担は現在の0.5%から0.6%となり、月給30万円の労働者の場合、月額1500円から1800の負担になるとされます。またコロナによって休業手当を受けることができなかった場合に申請できる休業支援金についても来年3月末までの休業で支給を終了する方針とのことです。
雇用保険制度とは
雇用保険制度とは、労働者が失業したり、雇用の継続が困難になる、または労働者自ら職業に関する教育・訓練を受けた場合や子を養育するために休業した場合に、生活の安定と就労促進のために失業給付や育児給付を支給し、また失業の予防や雇用機会の増大などの増進を図る事業を行うといった雇用に関する総合的機能を有する制度とされております。その事業体系は(1)失業等給付、(2)求職者支援事業、(3)育児休業給付、(4)二事業となっております。二事業は雇用安定事業と能力開発事業に分かれます。これらの財源は労働者と事業者からの保険料と国庫負担(一般会計)となっております。労働者の生活基盤の保護や就労を促す制度と言えます。
適用事業と被保険者
雇用保険は農林水産業の個人事業など一部の事業を除き、労働者が雇用される事業すべてで強制適用事業としております(雇用保険法5条)。そしてその適用事業に雇用される労働者が被保険者となります(4条1項)。例外として、1週間の所定労働時間が20時間未満である者、同一の事業者に継続して31日以上個用されることが見込まれない者、季節的に雇用される者であって4月以内の期間を定めて雇用される者、または1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満である者、日雇い労働者であって適用区域に居住し適用事業に雇用されるなどの要件に該当しない者、公務員、昼間学生は適用除外となっております(6条)。 そして被保険者は(1)一般被保険者、(2)高年齢被保険者、(3)短期雇用特例被保険者、(4)日雇い労働被保険者の4つに分かれております。なお同時に2以上の雇用関係にある場合は、生計を維持するのに必要な主たる賃金を受けている雇用関係についてのみ被保険者となるとされております。
失業等給付
失業等給付は大きく、求職者給付、就職促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付の4つに分かれます。そのうちの求職者給付は一般被保険者が失業した際に、(1)離職日から2年間遡って被保険者期間が12ヶ月、または(2)倒産・解雇等で離職日から1年間遡って被保険者期間が6ヶ月以上の場合に支給されます。基本手当日額は賃金日額に給付率を乗じたものとなり、賃金日額の下限は2,577円、上限は年齢ごとに13,520円~16,530円となっております。給付率は賃金日額によってことなり最大で80%となっております。給付される日数は、一般離職者の場合、被保険者であった期間が1年以上10年未満の場合は90日、10年以上20年未満の場合は120日、20年以上の場合は150日となっております。
コメント
厚労省によりますと、新型コロナウイルス感染拡大を受けて事業縮小を余儀なくされる事業者に、従業員の雇用維持を図るために休業手当など一部を助成する雇用調整助成金の支給は今年6月の時点で5兆8159億円にのぼるとされます。その主な財源は雇用保険の保険料を積み立てた雇用安定資金と一般会計とされており、雇用安定資金の方は底をついていると言われております。そこで厚労省は保険料を労働者と事業者合わせて0.2%引き上げる方針を示しております。引き上げは来年4月を予定しております。近年のコロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などによる円安と物価高によって中小企業では事業の縮小や倒産が増加の一途を辿っております。今後さらに助成金やそれに伴う保険料等の増額も予想されます。政府の動きを注視して事業継続と雇用維持を模索していくことが重要と言えるでしょう。
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