リカレント教育推進の動き、法務パーソンはどう活用する?
2023/03/13 労務法務, 労働法全般
はじめに
就職し社会に出てから、「もっと大学時代に勉強しておけばよかった」。そんなふうに感じたことはありませんか?
情報化社会の進展に伴う急速な技術革新により、世の中が目まぐるしく変わる今日。仕事で求められるスキル・ナレッジ・ノウハウを、それらの変化に合わせてアップデートし続けることが重要です。そのためか、英語で“循環する”、“何度も繰り返す”との意味がある「リカレント(recurrent)」という言葉が日本社会でも注目され始めています。
リカレント教育とは、高校や専門学校・大学などを卒業し、会社に勤め始めてから、勤務先の業務に必要なナレッジを深めたり、スキルに磨きをかけることを目的に「学び直し」を行うことを指します。厚生労働省をはじめ、経済産業省、文部科学省などと連携して、政府も国を挙げた支援に取り組み始めています。
また、「仕事との両立が可能になるように、学び直しのための休暇制度を設けるべきだ」という声もあがっており、リカレント教育が本格的に推進される動きがあります。
日本におけるリカレント教育
日本では⼤学・⼤学院の正規課程で学んでいる社会⼈の割合が低いというデータがあります。2018年にOECDが行った調査によりますと、OECD諸国における⼤学・⼤学院への入学者割合は、25歳以上の学士過程で16%、30歳以上の修士課程で26%ほどのところ、日本では、25歳以上2.5%、30歳以上13.2%に留まるとされています。こうしたデータを裏付けるかのように、働きながら学べる環境を整備している企業の割合も1割程度となっています。
こうした背景もあり、政府は人材投資への一環という位置づけで、リカレント教育に関する政策を打ち出しています。2022年度の「骨太の方針」にもその旨が書きこまれており、力の入れ具合が伺えます。
そもそも、国がリカレント教育を推進する目的は、社会人が学び直しを行うことで、より専門性の高いスキルや新たなナレッジを習得し、ビジネス領域における国際競争力を高める地盤づくりを行うことです。
もともとヨーロッパで積極的に取り入れられていましたが、日本でもコロナ禍でリモートワークが普及し通勤に使っていた時間を勉強に充てる人が増えたことなどから認知され始めました。
さらに、近年、多くの企業においてDX推進の機運が高まっており、業務フローのデジタル化が進んでいます。その結果、デジタル技術が求められる場面が増えており、特にIT関連の企業を中心に、企業内の研修制度を充実させる動きが目立ってきています。
サバティカル休暇
では、リカレント教育の制度導入を考えるにあたり、企業としてどのような対応が求められるのでしょうか。今後、リカレント教育支援を目的とした休暇制度を導入する企業が増えてくると予想されますが、その際に参考にしたいのが、ヨーロッパを中心に普及している「サバティカル休暇制度」です。
サバティカル休暇とは、ある一定の在職期間に達した従業員に対して、一定期間休暇を与える福利厚生上の制度のことです。その運用方法は企業ごとに異なりますが、一般的に1ヶ月から1年ほどの期間を設ける事例が多いと言われています。
人材の流出防止や従業員の健康促進、過労防止にもなるとして注目されており、日本でも働き方改革に関連し、取り組む企業が増え始めています。一方で導入にあたっての注意点もあります。
(1)サバティカル休暇中の給与面等
休暇中に給与を支払うのか、ボーナスの取り扱いをどのようにするのかなども含め、休暇中の条件面の取り扱いを検討することが重要です。基本的に無給とする企業が多いようですが、会社によっては、社会保険などは本人負担相当分を会社が支給したり、休暇中のリカレント教育に要する学費の初期費用の負担を行うなど、様々な支援の在り方があります。
(2)サバティカル休暇中のトラブル回避
長期休暇中とは言え、当然ながら、籍は社内に置かれたままとなります。そのため、サバティカル休暇中に従業員がトラブルを引き起こした場合、会社に損害が及ぶおそれがあります。どこまでの拘束力を持たせるかは難しい判断になりますが、休暇中の禁止事項・制限事項などを事前に示しておくことは、トラブル予防に繋がります。
(3)サバティカル休暇終了後に復職しない従業員への対応
あるケースでは、サバティカル休暇が終了したにも関わらず、社会保険料等を滞納したまま出社しない従業員がいたといいます。就業規則などに「休暇終了後、一定期間出社しない場合には雇用関係が終了する」旨を盛り込むなどの対策のほか、定期的に従業員と連絡を取ることで、従業員の異変に早期に察知することが重要です。
法務パーソンにお薦めのサバティカル休暇の過ごし方
では、自社においてサバティカル休暇が導入された場合、法務パーソンはどのように過ごせばよいのでしょうか。既に導入が進んでいるヨーロッパなどでの活用事例を踏まえ、お薦めの過ごし方をご紹介します。
1. 体型的な法律学習
実務での必要に応じて増築を繰り返すように学んで来た法律に関し、改めて体系立てて学び直したいと考える法務パーソンは少なくありません。そのために、法科大学院への進学、大学の特別講座の受講、資格試験予備校の講座受講(司法試験、司法書士試験、弁理士試験、行政書士試験、知的財産管理技能士、ビジネス実務法務検定)などの選択肢が考えられます。中には、休暇を機会に海外のロースクールに入学した例もあります。
2.ビジネス分野の知見を深める
ビジネス理解力の高い法務パーソンが重視される昨今、ビジネス全般をしっかりと学び直したいというお声も耳にします。そんな方には、中小企業診断士取得のための勉強やMBAへの挑戦なども有力な選択肢になると思います。また、ベンチャー企業を経営する知人などがいる場合には、法務以外の分野でそちらのお手伝いを行うことで、ビジネス理解を深めることが出来そうです。
3.法務に掛け合わせる別の“専門性”の習得
法務パーソンとしての付加価値を高めるうえで、日本法以外の分野の専門性も習得し、掛け合わせを作ることが有効です。例えば、「リーガル × IT業界」、「リーガル × 中国法」、「リーガル × AI」といった具合です。
そのために、サバティカル休暇中に、関心のある国や業界・プロダクトの知見を深める、新たな言語を習得するといった選択肢も考えられます。
コメント
もともと勉強癖のある方が多いと言われている法務パーソン。自分がやりたい勉強を会社が支援してくれる、さらに、そのための休暇まで取れるとなると、願ったり叶ったりなのではないでしょうか。
リカレント教育の機運が盛り上がっているこの機会に、ご自身が今持っている専門性のどの部分を深化させたいのか、今の自分にどんな専門性を掛け合わせたいのかなど、ご自身の法務パーソン像を見つめ直してみるのもよいのではないでしょうか。
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