大阪地裁が読売新聞の独禁法違反を認定、特殊指定とは
2023/05/02 独禁法対応, 独占禁止法
はじめに
読売新聞から不要な仕入れを強制されたとして、新聞販売店の元店主が損害賠償を求めていた訴訟で先月20日、大阪地裁は同社の独禁法違反を認めました。しかし賠償については棄却とのことです。今回は独禁法の不公正な取引方法の一種である特殊指定について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、広島県福山市でYC(読売センター)大門駅前店を経営していた原告の男性は2017年1月から18年6月までの間に実際の配布部数の2倍近くを読売新聞から注文していたとされます。同社は読者数の増減とは関係なく毎月2280部で固定していたとされ、毎月大量の残紙が出ていたとのことです。新聞社による販売店に対する必要数を超えた部数の買い取り強制をいわゆる「押し紙」と言いますが、これにより廃業を余儀なくされたとして約1億2400万円の損害賠償を求め大阪地裁に提訴しておりました。これに対し読売新聞側は一度も注文部数を指示したことはないとしておりました。
不公正な取引方法と公取委の指定
独禁法2条9項各号では不公正な取引方法が列挙されております。具体的には共同の供給拒絶、差別対価、不当廉売、再販売価格の拘束、優越的地位の濫用などです。そして6号では、(イ)不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと、(ロ)不当な対価をもって取引すること、(ハ)不当に競争者の顧客を自己と取引するよう誘引し、又は強制すること、(二)相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引すること、(へ)自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は当該事業者が会社である場合において、その会社の株主若しくは役員をその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、唆し、若しくは強制すること、のいずれか該当し、公正競争を阻害するおそれがあるものとして公取委が指定するものも不公正な取引方法に該当することとなります。違反した場合には排除措置命令や課徴金納付命令が出される場合があります(20条、20条の2以下)。
公取委の一般指定
上記公取委による指定には一般指定と特殊指定があります。まず一般指定(昭和57年6月18日公取委告示15号)は1項から16項まであり、その内容は、共同の取引拒絶、その他の取引拒絶、差別対価、取引条件等の差別的取り扱い等、事業者団体における差別的取扱い等、不当廉売、不当高価購入、欺瞞的顧客誘引、不当な利益による顧客誘引、抱合せ販売、排他条件付取引、再販売価格の拘束、拘束条件付き取引、優越的地位の濫用、競争者に対する取引妨害、競争会社に対する内部干渉となっております。このうち共同の取引拒絶、差別対価、不当廉売、再販売価格の拘束、優越的地位の濫用については独禁法にも規定があり、独禁法に規定された方に違反した場合には排除措置命令だけでなく課徴金の対象となっております(20条の2~6)。
公取委の特殊指定
公取委の特殊指定は特定の事業分野における不公正な取引方法を指定して規制しております。具体的には現在、新聞、物流、大規模小売業の3分野で指定されております。現在は廃止されておりますが、かつては海運、教科書、食品缶詰、オープン懸賞についても指定がなされておりました。まず物流(平成16年3月8日公取委告示1号)については荷主による下請け運送業者への運賃の買いたたきや強制購入などを禁止しております。大規模小売業(平成17年5月13日公取委告示11号)については大規模小売業者が納入業者に対して不当な返品や値引き、買いたたきをすることを禁止しております。そして新聞業(平成11年7月21日公取委告示9号)では、新聞発行会社が地域や相手方によって異なる定価で販売すること、地域や相手方により値引き行為を行うこと、そして販売店に対し、注文された部数を超えて供給すること、または販売店に自己が指示する部数を注文させることを禁止しております。これはいわゆる押し紙行為のことです。
コメント
本件で大阪地裁は、販売店を始めた時点で約800部の残紙があったことについては、読売新聞側が仕入れ部数を指示したと認定し、実配数の2倍近くの供給に正当かつ合理的な理由はなく、販売店側に不利益を与えたものとして特殊指定3項2号に違反するとしたとされます。一方で読売新聞側が補助金や奨励金などを通常より多く支払っていたことから損害賠償の対象となるほどの違法性は無いとして損害賠償については棄却したとのことです。以上のように独禁法では法定の違反類型だけでなく、公取委による指定による規定も存在します。特に新聞や運送、大規模小売業を対象とした特殊指定は見落とされがちと言えます。今一度これらの規定も含めて独禁法の違反類型をおさらいし、社内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。
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