厚労省、「子ども3歳まで在宅勤務」を企業に努力義務化へ
2023/05/22 労務法務, 労働法全般
はじめに
少子高齢化が叫ばれる中、厚生労働省がある施策を打ち出すことになります。それは、3歳までの子どもがいる人に「テレワーク勤務」という選択肢を付与することです。政府はこれを事業主に努力義務として課す方向で検討しています。育児休業後の復帰を後押しするべく、柔軟な労働環境の整備にも取り組むとしており、減少傾向にある出生率に歯止めをかけたい狙いがあります。
子どもが3歳未満の人が現状利用できる制度
現行の育児・介護休業法上、子どもが3歳未満の人は以下の制度が利用できます。
1.短時間勤務制度(法第23条)
事業主に対し、3歳未満の子を養育する従業員が希望したときに利用できる短時間勤務制度(1日の所定労働時間を原則5時間45分~6時間とする制度)の設置の義務化。
2.所定外労働の制限(法第16条の8)
事業主に対し、3歳未満の子を養育する従業員が申し出た場合、所定労働時間を超えて労働させないことを義務化。
これらの制度の活用による勤務時間の短縮は、小さい子を持つ親の育児の支援に繋がっている一方、勤務時間の短縮による収入減を懸念する人も少なくないといいます。こうした背景から、勤務時間を短縮せずに、在宅勤務で育児に対応する選択肢を付与することで収入減への不安を解消することが一つの狙いといわれています。
経済的理由で出産にためらい
実際、収入への不安と出生数には、強い相関があるとされています。
紀尾井町戦略研究所が18歳以上の全国の男女2,400人を対象にしたアンケート調査によりますと、「あなたは今後、子どもを持とうと思いますか。」という問いに対して「現在未婚で、将来単身のままでも結婚しても子どもを持とうとは思わない」と回答した人が男女ともに最多(男性26%、女性24.2%)だったといいます。
さらに、「あなたが子どもを持つことをためらう理由」という問いに対し、「経済的不安」を挙げた人が、こちらも男女ともに最多(男性38.6%、女性40.8%)でした。
その他にも「若い世代が安心して結婚できるように必要なこと」という問いに対し、「安定して賃金を得られる支援」という回答が計73.4%にのぼるなど、経済的な不安から結婚や出産に踏み出しづらいと感じる人が多いことがわかります。
[KSI Web調査] 子どもを持たない理由「経済的不安」トップ(紀尾井町戦略研究所)
こうした背景もあってか、共働き世帯が増加。近年では出産した女性だけでなく、父親の育児休暇にも注目が集まっています。
令和3年6月の育児・介護休業法改正
2022年の出生数は速報値で80万人を下回る数字が出るなど少子化が現在進行形で加速中です。政府も強い危機感を持って少子化対策に取り組んでおり、こども家庭庁の発足や共働き世帯が働きやすい環境づくり・教育面の支援などにも力を入れていますが、いまだ整備が追いついていない状況です。
一連の問題を受け、政府は労働環境の改善に着手。2021年6月に行った「育児・介護休業法」では、主に育児休業に関わる点において新たな改正を行っています(2022年4月1日から段階的に施行)。
(1)『産後パパ育休』の創設
子どもの出生後8週間以内に4週間まで取得することができる柔軟な育児休業の枠組み創設。
原則休業の2週間前までに申し出ることで取得でき、2回まで分割して取得できます。
(2)各種制度の周知・意向確認が義務化
本人や配偶者が妊娠または出産したことを申し出た従業員に対し、事業主は、
・法令および法令を上回る自社の育児休業制度(改正内容を含む)
・育児休業給付
・社会保険料免除
などの各種制度について提示し、これらの取得意向について個別に確認に行うことが義務付けられています。
(3)育児休業を取得しやすい職場環境の整備義務
全ての事業主を対象に、育児休業を取得しやすい職場環境の整備義務が課せられています。具体的には、以下のいずれかの措置を講じなければなりません。
・「育児休業・出生時育児休業」に係る研修実施
・「育児休業・出生時育児休業」に係る相談体制の整備
・自社における「育児休業・出生時育児休業」取得事例の情報収集及び提供
・「育児休業・出生時育児休業」に係る制度及び育休取得促進に係る方針の周知
(4)育児休業の取得率等の情報開示
従業員が1,000人超の事業主は、年に1回、自社のホームページや両立支援のひろば(厚生労働省が運営するWebサイト)等で以下のいずれかを公表することが義務づけられます。
・男性の育児休業等の取得率
・育児休業等と育児目的休暇の取得率
(5)有期雇用労働者の育児休業取得条件の緩和
現行制度では、①引き続き雇用された期間が1年以上で②子が1歳6ヶ月になるまでの間に契約が満了することが明らかでないことが取得条件となっていますが、改正後は、②のみが取得条件となります。
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律の概要(厚生労働省)
コメント
今回は、育児休業制度等に関する国の動きをご紹介しましたが、企業側でも夫婦が子育てをしやすいように、フレックスタイムやテレワークなど、社員が自身のスケジュールに合わせて働ける独自の制度を導入することで、仕事と家庭の両立を支援できます。
また、社内または近隣に保育施設を設置することで、社員の子どもの保育環境を整えたり、相談窓口や支援プログラムを用意することで、子どもを今後持つ社員が子育てに対する不安を軽減することにつながるでしょう。
社員本人はもちろんのこと、配偶者やパートナーも育児をしやすい会社を目指すことで結果として、企業としての信頼も積み上がっていくのではないでしょうか。
人手不足があちこちで叫ばれる時代、社員のロイヤリティの向上・採用力の強化の面からも積極的に進めたい施策になります。
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