東映の元社員がセクハラなどで労災申請、事業主証明について
2023/06/26 労務法務, 労働法全般
はじめに
映画配給大手「東映」の元社員の女性がセクハラや長時間労働などで精神疾患を発症したとして、中央労働基準監督所に労災申請していたことがわかりました。事業主証明は出ていないとのことです。今回は労災申請手続きと事業主証明について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、女性は2019年~20年にテレビドラマ「相棒」の撮影現場などでフリーランスの60代男性スタッフから手を握られたり、「彼氏はいるのか」と聞かれたりしたとされます。女性は上司や社内の窓口に相談したものの適切な対応はされず、また女性は過労死基準である月80時間を超える時間外労働によって適応障害を発症したとのことです。その後「仮面ライダー」のプロデューサー補佐になってからも月100時間を超える時間外労働で病状が悪化して休職、22年10月い退職したとされます。会社側はセクハラの事実を認め謝罪しましたが、労災申請の事業主証明」には応じていないとのことです。
労災申請手続き
勤務中や通勤中の事故による負傷や業務に起因して病気になった場合、労災保険による補償を受けることができます。補償を受けるには労災申請の手続きが必要です。手続きの流れとしては、(1)従業員から会社に報告し、会社が労基署に労働者死傷病報告を提出、(2)労災請求書を労基署長に提出、(3)労基署長による調査、(4)労災給付決定または不支給決定となっております。労基署長の調査で不支給決定が出た場合、その決定に不服があるときは管轄労働局に審査請求をすることができます。この労災申請は労働者自身が行うこともできます。その際申請書類は労基署窓口か厚労省HPからDLすることができます。労働者が申請する場合に問題となるのが事業主証明です。これは労働者申請する場合でも会社が証明する欄となっており、会社がこれを拒否する場合も多いと言えます。
事業主証明
事業主証明は上記のように申請書にある事業主証明書欄に会社がする証明です。その内容は傷病の年月日と時刻、災害の原因と発生状況などです。しかし会社自身が労働災害であることを認めていない場合など会社側がこの事業主証明を拒否する例が多いと言えます。会社側としてはこの事業主証明をすることによって会社側の落ち度を認めてしまうのではないか、また損害賠償訴訟で会社側が不利になるのではないかと考える事業主が多いとされます。しかしこの事業主証明をしたとしてもそれにより会社側の責任が認定されるわけではありません。また労働者側としても、会社が事業主証明をしてくれない場合でも労災申請の手続きを進めることは可能となっております。会社側として労災の発生を争う場合は事業主証明拒否の理由書を労基署長に提出し、労基署の調査や照会には協力する旨を伝えることが重要と言えます。
労災申請と会社の責任
労働者が労災申請の手続きをするに際して、事業主はその手続を行うことができるように協力する義務があります(労災保険法施行規則23条1項)。また事業主証明についても労働者から求められた場合には原則としてすみやかに証明する義務があります(同2項)。会社側が労災の発生を争う場合でも原則として労働者の労災申請を妨げることはできず、上記のように労基署には会社側の立場や理由を説明する必要があります。また事業主は労働者に休業4日以上の労災事故が発生した場合、労働者死傷病報告書の提出が義務付けられておりますが、これを故意に提出しない、または虚偽の内容で提出した場合はいわゆる「労災かくし」として50万円以下の罰金が科されることとなります(労働安全衛生法120条)。また適切に労災申請がなされ労働者が労災保険給付を受けた場合、その後に会社に民事訴訟が提起されても保険給付分は賠償額から損益相殺され会社の負担が減ることとなります。
コメント
本件で東映側は元社員の女性に対するセクハラの事実は認め謝罪しました。しかし事業主証明への協力は拒否しております。労基署側は女性の長時間労働や残業代未払いについてすでに3回是正勧告しており、労災認定もされる可能性は高いと考えられます。今後会社側への民事訴訟に発展していくものと予想されます。以上のように従業員に労災が発生した場合、会社側は原則として労災申請に協力する義務があります。会社側として労災の発生を争う場合はその理由と立場を労基署に示した上で事業主証明を拒否する必要があります。また労災かくしをしても労働者が病院に受診したり労基署に報告や申請を行うことによって発覚します。従業員から労災の申し出があった場合にはどのように対応すべきかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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