自由に有給を取れなかったJR東海元乗務員が敗訴、年次有給休暇について
2023/07/10 労務法務, 労働法全般
はじめに
JR東海の元新幹線乗務員の男性が、有給を自由に取得させてもらえなかったとして損害賠償を求めていた訴訟で大阪地裁が請求を棄却していたことがわかりました。5日前の変更も不合理とは言えないとのことです。今回は労基法の年次有給休暇について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、JR東海で新幹線の運転士や車掌を務めた大谷川公明さん(68)は2015年から2016年にかけて年休を取得しようとしたところ、128回の申請のうち95回を希望通りに取得することができなかったとされます。また合計で7日分の年休が期限を過ぎたことにより取得権利を失ったとして同社に対し40万円の損害賠償を求め提訴していたとのことです。原告側は「事業の正常な運営を妨げる場合に当たる」として希望通りの年休が与えられなかったと主張しておりました。なお同様の訴訟が東京地裁でも行われ、3月に現役運転士に計約54万円の支払いを命じる判決が出ております。
年次有給休暇
労働基準法39条1項によりますと、使用者は業種、業態にかかわらず、また正社員、パートタイムなどの区分なく、一定の要件を満たした全ての労働者に対し、年次有給休暇を与えなければならないとしております。年次有給休暇が付与される要件は、雇入れの日から6ヶ月の継続勤務かつ全労働日の8割以上の出勤とされております。この出勤率については、業務上の怪我や病気、法律上の育休などで休んでいる期間も出勤したものとして取り扱う必要があり、また会社都合の休業期間などは原則として全労働日から除外する必要があります。付与される有給の日数は、労働者の継続勤務年数によります。半年で10日、1年半で11日、2年半で12日、3年半で14日、4年半で16日と1年ごとに増加していきます。週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の場合は週所定労働日数ごとに付与日数が異なってくることから注意が必要です。
年次有給休暇の取得と指定
年次有給休暇の取得日は、労働者が指定することによって決まり、使用者はその指定された日に有給休暇を与えなければならないとされます(39条5項)。ただし労働者の指定した日に有給休暇を与えると、「事業の正常な運営を妨げる場合」には、使用者に休暇日を変更する権利が認められております(同ただし書き)。これを時季変更権と言います。年次有給休暇は原則として労働者の請求により与えることとなっておりますが、年10日以上の年次有給休暇が付与されている労働者に対しては年5日については使用者が時季を指定して取得させる必要があります(同7項)。ただし年次有給休暇を5日以上取得済みの労働者に対しては使用者による時季指定は不要とされております。この時季指定に当たっては労働者の意見を聴取し、その意見を尊重するよう務めなければならないとされます。
有給休暇に関する裁判例
上記のように会社は労働者からの休暇時季指定があった場合でも、「事業の正常な運営を妨げる場合」は時季を変更することができます。この点について判例は、会社として通常の配慮をすれば勤務割を変更して代わりの者を配置できる客観的状況があるにもかかわらず、会社が年休を取得させるための配慮しないときは、必要人員を欠くことを理由に「事業の正常な運営を妨げる」とは言えないとしております。また年休の利用目的を考慮して年休を与えないことはできないとしております(最小判昭和62年7月10日)。「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、労働者が年休を取得しようとする日の仕事が、担当業務や所属部署など一定の範囲の業務運営に不可欠で、代替者を確保することが困難な状態を指すとされ(最小判昭和60年3月11日)、結果的に事業の正常な運営が確保されていても、業務運営の定員が決められているなど事前の判断で正常な運営が妨げられると考えられる場合は変更できるとしております(最小判昭和57年3月18日)。
コメント
本件で大阪地裁は、会社が恒常的な人員不足を理由に時季変更権を行使したとは認められず、他の人も含め、期限が近い年次有給休暇から優先して振り分けていたとし、調整のために5日前になって会社が変更したことも不合理とまでは言えないとして原告側の訴えを退けました。勤務割や他の人員などを考慮し、他の従業員の年休取得事情なども配慮した結果や鉄道会社という緊密な運行予定に基づいて業務が運営されている業態も考慮して適法と判断されたのではないかと考えられます。以上のように労基法では一定の要件のもと従業員に有給休暇が付与されており、従業員が指定した日に原則として休暇を与える必要があります。また時季変更権も単に業務が多忙であるからという理由では変更は認められないと言われております。従業員からの有給指定がなされた場合は勤務割や他の人員なども配慮して付与可能かを考慮していくことが重要と言えるでしょう。
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