函館バス社長らを労組が刑事告発、36協定について
2023/09/14 労務法務, 労働法全般, 流通
はじめに
函館バスが従業員らと労使協定を結ばず時間外労働をさせたとして、労働組合が労基法違反の疑いで会社と社長らを刑事告発していたことがわかりました。会社側は違法性はないとしております。今回は労基法の36協定と労組について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、北海道南部の函館市などで路線バスを運行する「函館バス」(函館市)が2021年4月以降、36協定を結ばずに従業員に時間外や休日に労働させたとして、労働組合「私鉄総連函館バス支部」が労基法違反の疑いで函館労働基準監督署に刑事告発したとされます。同社と同労組間の36協定は同年3月末で期限が切れており、同社に協定を結ぶよう求めたものの、同社側は協議を拒否し続けているとのことです。なお会社側は現在、労働者の過半数からなる別の労組ができており、昨年末に36協定を締結したとしており、違法性はないとしているとされます。
36協定とは
労働基準法32条によりますと、労働者の労働時間は原則として1日8時間、週40時間となっております。これを法定労働時間と言います。これを超えて時間外労働をさせるには労働者の過半数で組織された労働組合、または労働者の過半数を代表する者と書面で協定を締結し、労基署に届け出る必要があります(36条)。これをいわゆる36協定と呼びます。この36協定を締結することによって時間外労働をさせることが可能となりますが、無制限に時間外労働をさせることはできず、月45時間、年360時間が上限となっており違反した場合は罰則も規定されております。臨時的な特別な事情があり、労使が合意する場合は年720時間、複数月平均80時間以内、月100時間未満という上限で時間外労働をさせることができます(特別条項)。また現在36協定の書式が厚労省から提供される新様式になっており、それによることとなっております。特別条項についても同様です。36協定を締結せずに時間外労働をさせた場合、罰則として6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されます(119条)。
労働組合とその種類
労働組合とは、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他の経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体」を言うとされます(労働組合法2条)。労働組合は特定の企業や事業所で働く労働者で組織される場合、同一の産業に従事する労働者で組織される場合、企業や産業にかかわらず、一定の地域の中小企業で働く労働者で組織される場合があります。従業員数が1000人以上の企業はその4割に社内労組が組織されているとされますが、中小企業の場合は社内労組の組織率が1%に満たないとされます。そのような中小企業の労働者のために組織されているのが地域労組です。合同労組やユニオンなどと呼ばれることもあります。
36協定締結当事者
社内に複数の労組があるといった場合に、36協定の締結はどのようにすればよいのでしょうか。労基法36条では、事業場の労働者の過半数を組織する組合との締結を求めており、通達でも「当該事業場の労働者の過半数を組織している組合と締結すれば足り、他の組合と協定する必要はない」としております(昭和23年4月5日基発535号)。つまり有効な労組と締結すれば、それ以外の労組と締結しなくてもいいということです。ここで労組としての有効要件は、(1)労働者が主体となっていること、(2)自主性、(3)労働条件の維持改善等を目的としていること、(4)団体性、(5)法定規約を整備していることと言われております。特に自主性は重要で、組織面でも財政面でも独立している必要があります。締結した相手が有効な労組でなければ36協定も無効となってしまうということです。
コメント
本件で2021年3月末まで函館バスと36協定を締結していたのは鉄道やバス、タクシー等の産業別連合組合である私鉄総連函館支部です。その後同社では労働者の過半数から組織される社内労組ができたとし、その労組と36協定を締結したとしております。上記のように労組が複数存在する場合は、有効な労組1つと締結すれば足ります。今後同社内の労組の有効性などが争点となってくるのではないかと考えられます。以上のように労働者に時間外労働をさせるには36協定の締結が必須となってきます。しかし上でも述べたように中小企業での労組の組織率は1%にも満たないと言われており、また厚労省の監督指導結果でも昨年の指導実施事業場の4割以上で36協定に関する違反が確認されたとされます。今一度社内の労組、また協定について問題はないか見直しておくことが重要といえるでしょう。
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