AV出演被害防止・救済法違反(契約書不交付)で初めての有罪判決
2023/09/20 契約法務, コンプライアンス, 刑事法
はじめに
AV出演被害防止・救済法違反で初めて立件された事案で、9月14日、東京地方裁判所は有罪判決を下しました。出演者に対して、うその説明などを行い、出演を強いられるといった被害を防止するために昨年6月より施行されているAV出演被害防止・救済法。被告の男は無罪を主張していました。
AV出演被害防止・救済法違反で有罪
被告の男は、問題となった性行為映像(以下、「AV」)を制作した映像制作会社の代表です。男は2022年9月、3人の女性とAVへの出演契約を結んだ際、彼女らに対し、契約内容を説明した書面や契約書を交付していなかったとして、AV出演被害防止・救済法違反などで昨年12月に立件され裁判にかけられていました。
男は、わいせつ電磁的記録陳列罪の起訴内容については認めた一方、AV出演被害防止・救済法違反については、同法が「職業選択の自由を保障する憲法22条に違反している」として、無罪を主張していました。
しかし、東京地方裁判所は判決の中で、「同法は、AVの制作を罰則の対象とするものではなく、職業選択の自由を制限していない」として、合憲である見方を示し、男に対し懲役2年、執行猶予3年、罰金150万円、追徴金約876万円の有罪判決を言い渡しました。また、法人としての映像制作会社にも罰金30万円の支払いが命じられています。
今回の判決は、AV出演被害防止・救済法施行以来、同法違反での初めての判決とみられています。弁護側は控訴する方針だということです。
AV出演被害防止・救済法とは
AV出演被害防止・救済法は、2022年6月15日に成立した法律です。AV出演契約での被害を防止し、意に沿わない契約を締結した被害者を救済することを目的としています。そのために規定されているルールの一つが、“契約の締結”に関するもの。
まず、契約を結ぶ際には、映像制作者はAV作品一つごとに出演者に出演契約書を作成・交付、契約内容について詳しく説明することが義務付けられています。
また、契約履行に関する特則として、映像制作者は、出演予定者に契約書等を交付してから1か月は撮影ができないこと、撮影時の安全配慮への義務、そして出演者は、意思に反した撮影や嫌な行為は断ることができるというルールが定められています。
さらに、撮影終了後、4か月間は映像の公表は禁止されており、映像の公開前に出演者は撮影された内容を確認することも可能となっています。
このほかにも無効、取り消し、解除に関する規則や差止請求、プロバイダ責任の特例などのルールもあり、罰則も定められています。
・任意解除の妨害のための不実告知または威迫・困惑行為
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その他の法令における契約書の作成・交付義務
今回の事件では、契約書の不交付が理由で有罪判決が下りましたが、一般的に契約は当事者の合意(意思の合致)があれば成立するとされています。そのため、契約書などの書面を作成・交付しなくても(口頭合意のみでも)、効力を有するのが原則です。
一方で、AV出演契約をはじめ、重要な意思決定を要する契約や契約当事者間の情報格差が大きくなりがちな契約の中には、法律で書面の作成や交付が義務づけられていたり、書面の作成が契約の成立要件となっているものがあります。
具体的には、一部の業務委託契約書(下請法)、建設工事請負契約書(建設業法)、雇用契約書(労働基準法)、労働者派遣契約書(労働者派遣業法)、一部の消費者向けの契約書(特定商取引法・割賦販売法)、金融商品取引契約書(金融商品取引法等)、保険契約書(保険業法)、定期建物賃貸借契約書(借地借家法)、貸金業者による金銭消費貸借契約書(貸金業法)、一部のフランチャイズ契約書(中小小売商業振興法)、不動産の売買・交換・賃貸に関する契約書(宅建業法)、福祉サービス利用契約書(社会福祉法)などが挙げられます。
コメント
AV出演被害防止・救済法違反での第一号有罪判決となった今回の判決。「契約書を交付しないと、実際に犯罪として処断されるのだ」ということを業界全体に強く印象づけるものとなったのではないでしょうか。今後は、契約書の交付はもとより、医療機関で行われているような、チェックリストに照らし合わせた説明と説明を受けた旨を証する書面の作成などの運用が行われることになりそうです。
内閣府男女共同参画局が2020年に行った調査では、モデルやアイドルとして勧誘されて撮影に参加した女性のうち、事前に聞いていない又は同意していない性的な撮影を現場で要求された割合が7人に1人にのぼるといいます。今回の判決により、AV出演被害防止・救済法が適切に機能し、こうした被害が少しでも予防されることが望まれます。
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