消費者庁が「塚本水産」と「P.Sホールディングス」に業務停止命令、電話勧誘販売規制について
2023/10/03 コンプライアンス, 行政対応, 特定商取引法
はじめに
電話勧誘の際に事業者名を告げなかったとして、消費者庁が海産物勧誘販売の「塚本水産」(札幌市)などに対し業務停止命令を出していたことがわかりました。勧誘には5つの屋号を使用していたとのことです。今回は特定商取引法の電話勧誘販売規制を見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、海産物の電話勧誘販売を営む「塚本水産」と「P.Sホールディングス」は連携して、2022年7月、高齢の消費者に電話をかけ、「海産物が残ったので安くお分けする」「3点1万8千円のところ、1万6千円に値引きします」などと勧誘したとされます。その際に実際の事業者名とは異なる屋号を告げたのみとされており、同社は勧誘に「太一市場」「直輝物産」「誠商店」などすくなくとも5つの屋号を使っていたとのことです。同2社に対しては2021年3月~23年9月にかけて469件の消費生活相談が寄せられており、またP.Sホールディングスに対しては同様の違反で19年にも業務禁止命令が出されております。
電話勧誘販売とその規制
販売事業者が消費者に電話をかけ、その電話での勧誘によって消費者から契約の申込を郵便等により受け、または契約を締結して行う商品、権利の販売または役務の提供を「電話勧誘販売」と言います(特定商取引法2条)。電話を一旦切った後でもその勧誘によって消費者が購入意思の決定を行った場合は該当することとなります。電話勧誘販売に対しては特商法上様々な規制がなされており、事業者の氏名等の明示(16条)、再勧誘の禁止(17条)、書面の交付(18条、19条)、前払式電話勧誘販売での諾否の書面通知(20条)などが行政規制として置かれております。それ以外にも罰則や民事上の規制も用意されております。
書面の交付義務等
上でも触れたように電話勧誘販売に際しては、事業者は氏名や名称を消費者に明示する必要があります。具体的には事業者の氏名(名称)、勧誘を行う者の氏名、販売しようとする商品の種類、勧誘目的であることなどとなっております。次に事業者が消費者から契約の申込を受けたときは、(1)商品の種類、(2)販売価格、(3)代金の支払い時期と方法、(4)商品の引き渡し時期、(5)契約解除に関する事項、(6)事業者の氏名(名称)・住所・電話番号・代表者氏名、(7)契約担当者、(8)契約締結日、(9)商品名や製造業者、(10)契約不適合がある場合の販売業者の責任等について、その他契約解除に関する事項や特約などを記載した書面の交付が義務付けられます。また禁止行為として事実と異なることを告げることや、故意に事実を告げないkとお、相手方を威迫して困惑させることなどが規定されております(21条)。
違反に対して
これらの規定に違反した場合、行政処分として業務改善の指示(22条1項)や業務停止命令(23条1項)、業務禁止命令(23条の2第1項)が出される場合があります。業務停止命令は事業者に対し一定の期間営業を行うことを禁止します。これに対し業務禁止命令は2017年施行の改正特商法により導入された制度で、業務停止命令を受けた会社の代表取締役など指名された個人が会社を新たに設立して同種の営業を行うことを禁止するというものです。新たに法人を立ち上げることによって業務停止命令を潜脱することを防止します。これに違反した場合は罰則として3年以下の懲役、300万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(70条3号)。
コメント
本件で塚本水産とP.Sホールディングスは海産物の電話勧誘に際して、消費者に正しい事業者名を明示せず、5つの屋号を使い分けていたとされております。消費者庁は処分逃れの姿勢が見受けられるとしております。また届いた商品が値段に見合わないなどとしてクーリングオフをしようとしても宛先不明で送り返されるとしております。消費者庁は21カ月の一部業務停止命令を出しました。以上のように特定商取引法では電話勧誘販売についてかなり厳格な規制を設けております。その中でも特に事業者名の明示や書面交付は消費者に適切に対応させるために重視されており、記載内容も詳細に定められております。また本件のように複数の屋号や名称を使い分けることはクーリングオフや処分逃れの意図とみなされる恐れがあります。今一度自社の対応を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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