消費者庁、12月に内部通報体制の整備状況を調査へ
2023/11/15 労務法務, コンプライアンス, 公益通報者保護法
はじめに
消費者庁は9日、事業者の内部通報体制の整備状況を調査するために12月に1万社に対してアンケートを実施すると発表しました。2022年6月の法改正後初の調査とのことです。今回は内部通報者保護制度の概要を見直していきます。
事案の概要
消費者庁は保険金の不正請求を行っていた中古車販売大手ビッグモーターで内部通報制度の不備があったことを踏まえ、あらためて制度の周知徹底を図るために12月に1万社の事業者を対象としてアンケート調査を実施するとされます。消費者庁は9月、ビッグモーターから内部通報体制の報告を受け、定期的に報告をするよう行政指導を行っていたとのことです。アンケート調査の結果は2024年4月を目処に公表する予定で、新井消費者庁長官はこのような制度の必要性や有効性をあらためて終始し、事業者の体制整備を促していきたいと強調しております。
公益通報者保護制度
公益通報者保護法は、公益通報者の保護を図るとともに国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定および社会経済の健全な発展に資することを目的としております(1条)。ここで公益通報とは、労働者・退職者・役員が、不正の目的でなく、勤務先における、刑事罰・過料の対象となる不正を通報することとされております(2条)。公益通報を行ったことによる解雇は無効とされ、降格・減給その他の不利益な取扱が禁止され、事業者は公益通報によって損害を受けたとしても公益通報者に対し損害賠償請求をすることが制限されます(3条~7条)。また公益通報を行った者が会社役員である場合、公益通報をしたことによって解任された場合には解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(6条)。
通報先と保護の条件
公益通報の通報先は(1)事業者、(2)行政機関、(3)報道機関等の3つがあり、それぞれに保護の条件が異なっております。まず事業者への内部通報の場合、不正があると思料することが条件となります。行政機関への通報では、不正があると信ずるに足りる相当な理由があること、または不正があると思料し、氏名などを記載した書面を提出することとなります。そして報道機関等への通報の場合、不正があると信ずるに足りる相当の理由があることおよび生命・身体への危害、財産への重大な損害が発生する事由、また内部通報では解雇されそうな事由があること、通報者を特定させる情報が漏れる可能性が高い場合であることとされております。なお公益通報の対象となる通報対象事実は国民の生命、身体、財産等の保護に関わる法律違反で、最終的に刑罰につながる行為とされます。具体的には刑法、食品衛生法、金商法、独禁法、JAS法など400以上の法令とされております。
事業者の体制整備義務
常時使用する労働者の数が300人を超える事業者は、公益通報を受けた際に対象事実を調査し、是正に必要な措置をとる業務に従事する者を定める他、公益通報に応じて適切に対応するために必要な体制の整備その他必要な措置を取ることが義務付けられております(11条1項~3項)。労働者の数が300人以下の場合は努力義務となります。体制整備義務違反等の事業者には報告を求め、助言や指導、勧告、公表などの行政指導がなされる場合があり(15条、16条)。内部調査等の従事者には通報者を特定させる情報の守秘が義務付けられ、これに違反した場合には30万円以下の罰金が科されることとなります(21条)。また行政機関により報告が求められた際に、報告をしなかったり、虚偽の報告をした場合には20万円以下の過料が課されることとなります(22条)。
コメント
以上のように一定の刑事罰を含む法令違反行為については公益通報の対象となっており、これを行った従業員に対する不利益取扱いが禁止されております。また従業員の数が300人を超える事業者は内部通報制度を整備することが2022年6月から義務付けられております。しかし中古車大手ビッグモーターの事例でもあったように現在でも従業員による内部通報が適切に処理されていない場合や、内部通報を行った従業員を解雇するといった違反事例が散見されており、消費者庁は来月、1万社の事業者に対してアンケート調査を実施する予定です。調査結果によっては行政処分だけでなく、さらに規制を強化する法改正に進んでいくことも予想されます。従業員数が300人を超える事業者だけでなく、300人以下の事業者も今一度制度を確認し、自社の体制を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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