長期自宅待機でみずほ銀に賠償命令、退職勧奨について
2024/05/01 労務法務, 労働法全般, 金融・証券・保険
はじめに
長期間にわたる自宅待機の末に解雇されたみずほ銀行の元行員の男性が解雇無効や損害賠償を求めていた訴訟で東京地裁は24日、銀行側に330万円の賠償を命じました。限度を超えた違法な退職勧奨とのことです。今回は従業員に退職を求める退職勧奨について裁判例から見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、みずほ銀の元行員の50代の男性は関西地区のコンサルティング業務を中心とする営業を担当していたところ、2014年9月に上司が店頭から見える位置で足を組んで新聞を読んでいることに気づき、顧客から苦情があった旨も添えて支店長にメールで報告したとされます。それが原因で上司から問題のある職員と目をつけられ退職勧奨を受けるようになり、2016年4月月以降4年半にわたって自宅待機を命じられたとのことです。その後出社を命じられたものの拒否したこと、また欠勤していた時期もあったことを理由に懲戒解雇とされました。
退職勧奨とは
退職勧奨とは、会社が退職してもらいたい従業員に対して、自主退職を促す行為を言うとされます。会社側から一方的に雇用契約を解除する解雇と異なり、あくまでも従業員との話し合いで退職に向けた説得を行い、雇用契約の解消を目指します。解雇は従業員に多大な不利益をもたらすことから、それが有効と認められる要件は厳しく、また30日前の解雇予告または30日分の賃金の支払いなどが必要であり両者に負担が大きいと言えます。また後日解雇した従業員から解雇無効や未払賃金相当額の賠償などを求め提訴されるというリスクもあります。そういった負担やリスクを回避できるといったメリットが退職勧奨にはあると言えます。しかしこの退職勧奨も無制限ではなく、威迫や暴行、侮辱的発言、不必要な異動など、退職の求め方次第によっては違法な不法行為となる場合もあります。以下具体的に見ていきます。
退職勧奨に関する裁判例
(1)下関商業高校事件
高校の男性教諭が退職勧奨の基準年齢である57歳になったとして、退職勧奨を受けたものの一貫して応じない旨を表明しているにもかかわらず執拗に退職勧奨をされ続けたとして慰謝料等を求めた事例が存在します。この事例で裁判所は、退職勧奨は自発的な退職を説得する行為であって、従業員は自由にその意思を決定でき、任意の意思形成を妨げ、名誉感情を害する退職勧奨は不法行為となるとしました。その上で多数回かつ長期にわたる執拗なものであり、退職するまで続けると延べ、際限なく続くのではないかとの心理的圧迫を加えたものであり許されるものではないとしました(最小判昭和55年7月10日)。
(2)昭和電線電纜事件
昭和電線電纜事件は、人事勤労グループ長から退職勧奨を受け、自らの意思で退職するなら退職金に3ヶ月分の給与を加算する、退職しないなら解雇の手続きをすることとなると申し向けられ、自己都合退職をしたというものです。この事例で裁判所は、解雇事由が無いにもかかわらず、退職届を提出しなければ解雇処分となると誤信して解雇の意思表示をしたもので、合意の動機に錯誤があったとして解雇を無効と判断しました(横浜地裁平成16年5月28日)。
(3)全日空事件
全日空の客室乗務員として18年間勤務し、通勤途中の交通事故で労災認定を受けて約4年間休職していた従業員が、復職後に会社から仕事が与えられず、模擬演習で3回不合格となり、30数回にわたる面談で時に大声をあげられて退職を迫られ、最終的に労働能力の低下を理由に解雇となった事例があります。裁判所は、演習の不合格は休職中に設備機器の変化があったためであり労働能力の低下は認められないとし、長期間、30数回にもおよぶ面談には約8時間に及ぶものもあり、大声や暴言、机を叩く、寮にまで赴いて面談を行うなど社会通念上許容しうる範囲を超えた違法な退職強要となっていると判断しました(大阪地裁平成11年10月18日)。
コメント
本件で東京地裁は、退職勧奨に続く約4年間の自宅待機命令は、実質的に退職以外の選択肢を与えない状況を続けたもので、社会通念上許容された限度を超えた違法な退職勧奨に当たるとして330万円の賠償を命じました。以上のように退職勧奨はあくまでも従業員の自発的な退職を促すものであり、社会通念上の限度を超えて任意の意思形成を妨げるような言動を伴う場合は違法となります。本件のような長期間の自宅待機や、不合理な配置転換、暴言や机を叩く、怒鳴るなどの威迫行為、退職しなければ解雇するといった発言なども違法な不法行為に当たるとの判決が出ております。解雇の要件や手続きだけでなく、任意の退職を求める退職勧奨についても今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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