「おまえ臭いねん」大型洗濯機に押し込まれた同僚が全身打撲、男2人を逮捕
2024/07/08 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 刑事法
はじめに
勤務先のクリーニング会社で、知的障害のある同僚の男性を業務用の大型洗濯機の中に押し込み、回したなどとして、京都府警は7月4日、会社員の男ら2人を傷害の疑いで逮捕しました。
大型洗濯機に押し込み、同僚全身打撲
男ら2人は、3月26日午後2時半ごろ、同僚の男性(50)に対して「おまえ臭いねん。洗濯機に入れ」などと言って、男性を洗濯機に押し込み、そのまま作動させ、男性に全治2週間のけがを負わせた疑いがもたれています。
被害男性がこの数日後に病院を受診。背中などに大小多数の打撲をみた医師が不審に思い、府警に相談したことで事件が発覚しました。被害男性は逮捕容疑以外でも複数回、暴力を受けたと話していて、被害などを理由にクリーニング会社を退職したということです。
被害男性が勤めていたクリーニング会社では、着ぐるみや法被、学校のカーテンなどのクリーニングを受託しており、被害男性が押し込まれた洗濯機は容量約100キロ、縦・横・高さともに約2メートルある大型のものだったということです。
障がいのある人が最も差別を受けるのは「職場」とのデータも
今回の被害男性には知的障害がありました。
容疑者2人の暴行や嫌がらせと被害男性に知的障害があったこととの関連は明らかになっていませんが、障害を理由とする「職場」での差別に苦しむ人は少なくないと言われています。
2017年に障がい者総合研究所が行った調査では、「(障がいのある方が)どのような場所で差別や偏見を受けたと感じた経験があるか」という質問について、最も多かった回答は「職場(56%)」、次いで公共交通機関(30%)、インターネット(18%)だったということです。
調査は2017年のものですが、2023年の雇用障がい者数が64万2,178人と過去最高を更新する中、職場での障がい者への差別などが依然として根強く残っているおそれがあります。
障がい者に対する差別・偏見に関する調査(障がい者総合研究所)
職場での差別的発言で賠償命令も
障害への理解不足は、職場環境の整備の怠たりや、職場内いじめを引き起こすおそれがあります。また、障害を理由に昇進などを認めないことは差別的扱いとみなされる可能性があります。
実際、こうした職場内差別等が原因で、障がい者が退職に追い込まれたり、職場内トラブルが裁判に発展したケースも確認されています。
東京地裁平成29年11月30日判決
この訴訟は、スーパーに勤務していた知的障害のある男性が、指導係の女性従業員から差別的な発言をされ、退職に追い込まれたとして、スーパーと女性従業員に対して損害賠償を求めたものです。
男性は、2008年に入社。集中力が途切れやすく、記憶力が低いといった特性があるため、陳列作業、天板清掃、調理器具の洗い物、商品の袋詰めを担当していました。しかし、女性指導係から「仕事ぶりが幼稚園児以下」、「ばかでもできる」などという暴言を吐かれたことなどが原因で2013年に退職しています。
男性は、女性の複数回の暴言が不法行為にあたること、スーパー側に事後対応義務違反や就労環境整備義務違反があったことなどを理由に、女性とスーパーを相手どり、約585万円の損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起しました。
裁判所は2017年11月、原告の男性が女性指導係から複数回暴言を受けていたと認定。女性指導係の不法行為責任とスーパー側の使用者責任を認め、損害賠償として22万円の支払いを命じました。その一方で、
・問題発覚後、スーパーの店長が周囲への事実確認と女性指導係に対する口頭注意を行っていたこと
・スーパーでは、各店舗にサービス介助士資格者を配置していたこと
・スーパー側が原告男性の適性を考慮した部門配置を行っていたこと
・原告男性の職場では、店長・従業員・原告男性の家庭と密に情報交換・協議を行って原告男性に対応していたこと
などから、スーパー側の事後対応義務違反や就労環境整備義務違反は認められない形となりました。
その後、双方が控訴していましたが、控訴審で和解が成立したということです。
コメント
障がいのある人が職場で心地良く働き、十分に力を発揮するためには、会社側および配属先の上司・同僚等の障害への理解が不可欠です。
新たに配属される人が、できること・難しいこと・サポートしてほしいことなどを具体的に共有することが重要になります。
一方で、障害の内容や業務内容、社風などによっては、個々の障害の程度をどのくらい周囲に共有すべきか慎重な配慮が必要な場合もあります。
会社として継続的に就業状況を見守りつつ、本人と丁寧にコミュニケーションを取る中で、働き方やサポートの仕方を少しずつ擦り合わせていくことが大切です。
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