労基署が東京メトロに是正勧告、労働時間該当性について
2024/08/15 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般
はじめに
足立労働基準監督署が、泊まり勤務の職員の「休憩時間」が実際には労働時間に該当するとして、割増賃金を支払うよう東京メトロを運営する東京地下鉄に是正勧告を出していたことがわかりました。未払分は最大約86億円に上る見通しとのことです。今回は労働法の労働時間性について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、今回問題となったのは日比谷線で防犯カメラや信号機などの保守管理をする部署とされます。同部署ではカメラの故障などの突発事案に対応するため、毎日8人程度が朝まで泊まり込んで勤務に当たり、全員が同じ時間帯に計50分の休憩を取っていたとのことです。同社はこれまで、突発事案に対応した分は、代わりの休憩時間を設けたり、残業手当を支払ったりするなどして対応してきたとされますが、突発事案に対応していない休憩時間についても労働時間に該当するとして労基署は是正勧告を出しました。
労働法と労働時間
労働基準法32条によりますと、使用者は労働者に、休憩時間を除き、1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないとしております。これを超えて労働させるには、労働組合または労働者の過半数を代表する者と書面により協定を締結し、労基署に届け出る必要があります(36条)。また労働時間が6時間を超える場合は最低45分、8時間を超える場合は最低1時間の休憩を与える必要があります(34条1項)。それではこの「労働時間」とはどのようなものを言うのでしょうか。判例では労働時間を、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう」としております(最判平成12年3月9日 三菱重工事件)。就業規則や雇用契約書にどのように記載されていようとも、客観的に指揮命令下に置かれているかで判断されるということです。
労働時間の考え方
労働時間に該当するかは上記のように、使用者の指揮命令下に置かれているかで決まります。厚労省のガイドラインによりますと、使用者の明示的または黙示的な指示により労働者が業務を行う時間は労働時間に当たるとされます。労働時間に該当する場合として、命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内で行った時間が挙げられております。また使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態での待機等(いわゆる手持時間)や、参加することが業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間も労働時間に該当するとのことです。
労働時間性に関する裁判例
労働時間に関する著名な判例として上でも触れた三菱重工長崎造船所事件が挙げられます。この事例では業務時間外の作業服への着替えといった準備時間が労働時間に該当するかが争点となりました。最高裁は労働時間に当たるかは使用者の指揮命令下に置かれたと評価できるかで客観的に決まるとし、準備行為等が事業所内で行うことを使用者から義務付けられ、またはこれを余儀なくされたときは特段の事情が無い限り、指揮命令下に置かれたものと評価できるとしました。次に仮眠時間の労働時間性が問題となった事例では、仮眠時間であっても役務の提供が義務付けられていると評価できる場合は労働からの解放が保障されているといえず、指揮命令下に置かれているとして労働時間性を認めております(最判平成14年2月28日)。一方で韓国に出張するための移動時間が労働時間に該当するかが問題となった事例では、移動時間は労働拘束性の程度が低く、実労働時間に当たると解することは困難とし労働時間制が否定されております(東京地裁平成6年9月27日)。
コメント
本件では、日比谷線の防犯カメラや信号機などに突発的な事案が生じた場合に対応するため毎日8人程度が朝まで泊まり込み、計8時間50分の休憩という扱いがなされておりました。しかし突発事案が発生すれば対応する必要があり、労働から離れることが保障されている時間とは認められないとして労基署は是正勧告を出しました。以上のように労働法令の労働時間に該当するかは労働者が使用者の指揮命令下に置かれているか、労働から離れることが保障されているかなどで客観的に判断されます。不測の事態や突発事例に対応するために従業員を泊まり込ませている場合は睡眠を取っていたとしても労働時間に該当する可能性が高いと言えます。これらを踏まえて自社の勤怠管理を見直して置くことが重要と言えるでしょう。
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