アマゾンとアップルに経産省が初勧告、デジタルプラットフォーム取引透明化法
2024/08/19   契約法務, IT法務, コンプライアンス, IT

はじめに


経済産業省は、8月2日、IT企業のアマゾンジャパン合同会社と、Apple Inc.及びiTunes株式会社(以下 アップル)について、両社のプラットフォームを利用する企業との取引慣行を改善する措置をとるよう勧告を行いました。
今回の勧告は、経済産業省が巨大IT企業に取引企業との契約条件の開示などを義務付ける「デジタルプラットフォーム取引透明化法」に基づいて行われたものです。

アマゾンジャパン、アップルそれぞれが指摘された違反や勧告の内容について、見ていきます。

 

アマゾンへの勧告について


まず、アマゾンジャパンが指摘された違反内容は以下のとおりです。

【前提となる事実および違反内容】
アマゾンの通販サイトでは、商品が販売されるごとに、出品者がアマゾンに手数料を支払う契約となっています。手数料は、商品のカテゴリーごとに定められている「手数料率」に商品の販売価格を乗じて算出されるといいます(以下、手数料率を分けるカテゴリーを「手数料カテゴリー」という)。

出品者は、アマゾンの通販サイトで販売する商品を登録する際、商品の種類に応じた「商品タイプ」を選択することになっていますが、アマゾンジャパンが正しいと考える商品タイプが選択されていない場合、アマゾンジャパンの判断で商品タイプの補正が行われるとのことです。
こうした補正に伴い、「手数料カテゴリー」も補正・変更されるケースもあるといいます。

その意味では、アマゾンジャパンが、出品者に適用される手数料カテゴリーの決定主体といえます。

上記状況にも関わらず、
・個別の商品に適用される手数料カテゴリーをアマゾンジャパンが決定することが明示されていないこと
・具体的な商品の各手数料カテゴリーへの帰属を決定する基準が明確になっていないこと

などが、特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(以下、「デジタルプラットフォーム取引透明化法」という)第5条1項、同施行規則第5条1項1号に違反するとして、経済産業省はアマゾンに対して勧告を行いました。

【勧告内容】
(1)ウェブサイト上での取引の実際の状況に合わせて、販売手数料に関する提供条件の内容を明確かつ平易な表現で開示すること
(2)手数料カテゴリー自体を変更する場合及び個々の出品者の同種商品に適用される手数料カテゴリーを変更する場合には、事前に内容及び理由を開示すること

第五条 特定デジタルプラットフォーム提供者は、利用者に対して特定デジタルプラットフォームを提供する場合の条件(提供条件)を開示するに当たっては、当該提供条件に関する利用者の理解の増進が図られるよう、経済産業省令で定める方法により、これを行わなければならない。


ちなみに、経済産業省が設置した相談窓口には、複数の相談が寄せられているといいます。
中には、アマゾンジャパンによる販売手数料カテゴリーの補正により、出品者の想定よりも高額な販売手数料が徴収されたケースもあるようです。

アマゾンジャパンは今回の勧告を受け、事業者への説明や事前通知の方法をすでに変更・改善しているということです。

 

アップルへの勧告について


アップルが指摘された違反内容は以下のとおりです。

【前提となる事実および違反内容】
アップルは、スマートフォンユーザーとアプリの提供事業者(以下、「アプリ事業者」という)を結びつける、アプリストア「Apple Store」を提供しています。

「デジタルプラットフォーム取引透明化法」では巨大IT企業が事業者に契約条件を説明する際の対応を定めています。具体的には、英語の原文と日本語を同時に発表するか、または発表時に翻訳が間に合わないケースでも自ら定めた期日までに対応するよう求めています。

アップルは、2021年2月1日以降、「Apple Store」を利用するアプリ事業者に対し、Apple Developer Program 使用許諾契約、その他の契約等における「提供条件」の変更内容を開示する際、英語のみでこれを示して日本語の翻訳文を同時に付さず、また、日本語の翻訳文を付す期限も明示していませんでした(違反事実①)。

また、経済産業省からの指摘を受けて、2024年1月25日にApp Store Review ガイドライン(英語で作成)の「提供条件」を変更した際には、『ガイドラインの翻訳は、1か月以内に Apple Developer Web サイトで確認できるようになる』と自ら明示したにも関わらず、3月7日になるまで、翻訳文は付されませんでした(違反事実②)。

経済産業省は一連の違反事実に関し、デジタルプラットフォーム取引透明化法第5条1項の規定の遵守に係るアップルの社内管理体制を問題視。以下の勧告を行いました。

【勧告内容】
・デジタルプラットフォーム取引透明化法第5条1項の遵守に関する社内管理体制の整備に必要な措置を講ずること
・上記に基づく措置を、法第5条第1項の規定遵守に関係する従業員に周知徹底すること

 

デジタルプラットフォーム取引透明化法


特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律、いわゆる「デジタルプラットフォーム取引透明化法」は、2021年2月に施行された法律です。

アマゾンやアップルなどが提供するデジタルプラットフォームは多くの人が利用しており、利用事業者としては自社製品の広告宣伝効果などを高めることができる反面、プラットフォーマー側が規約やルールを一方的に変更した際、その力関係から個別の交渉が難しく、さらに、他のプラットフォームへの切り替えも事実上難しい実態があります。
そこで、利用事業者が不利益を被らないよう、この法律により、取引の透明性・公正性を高めることを目指しています。

デジタルプラットフォーム取引透明化法では、特に取引の透明性が求められるプラットフォーム事業者を「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定しており、アマゾンジャパンやアップルのほか、グーグルやメタ社などが対象となっています。これらの事業者には取引条件などの情報開示などの報告が義務付けられており、経済産業省は必要に応じて措置を取るということです。

 

コメント


巨大IT企業に対してはデジタルプラットフォーム取引透明化法以外にも、2024年6月に成立した、スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律、通称、「スマホソフトウエア競争促進法」で規制を行っています。

スマートフォンの基本ソフトなどの分野で、アップルやグーグルが優越的な地位にあることに鑑み、競争を妨げる「禁止行為」をあらかじめ示して規制していくものです。

現在、公正取引委員会がアプリ事業者などに対し、「禁止行為」に該当するような取引があったか等のヒアリングを行っているといいます。今後、アプリ事業者からの情報をもとに、新たな規制に関するガイドラインを作成していくということです。

世界中で厳格化が進む、デジタルプラットフォーマー規制。その動向から目が離せません。

 

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